「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第13回

今までは常識だったが、今は意味合いが薄れたアプローチ

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
前回まで4回にわたって、以前からも、そして現在も資金調達において大切なポイントを簡単にご説明してきました。中小企業の資金調達が新時代を迎えたとはいえ、金融機関の特性は大きく変わることはないので、以前において重要だったポイントの多くは今後も変わることがないのです。不払いや資金使途違反などを含めた約束事の違反は行わないなどの日々の行動、決算書や試算表でもって我が社の説明ができること、そして金融機関と良好なコミュニケーションをとることなどが、資金調達にとって今後も大切な要素となります。


新時代に入って変わって来たこと

このように書くと「結局は、ほとんどのところで以前と変わらないではないか?新時代というけれど、実際は何が変わったのか?」というご質問があるかもしれません。これに関しては「金融機関にとって、これまで主流であった『債務者区分(格付け)』による融資判断を行う必然性が薄れてきた。このため『資金調達を目的とした格付けアップ策』の意味合いが薄れてきた」と言えます。


格付けとは

「債務者区分(格付け)」とは、融資判断する場合に企業をあらかじめ格付け(ランク付け)し、それに基づいて融資の可否や条件を決定するというシステムです。最上位ランクに該当する企業には低利・無担保で融資するが、だんだんと下がるにつれて金利が上がり、担保も必要となってくる。一定レベルより下位に該当する企業には融資できないと判断するという仕組みです。

この方式は、金融庁(金融監督庁)が発足して「金融検査マニュアル」による金融機関チェックが浸透するにつれて定着してきました。金融庁は、債務者区分の概念を導入することにより、実質「できるだけ安全性の高い先(格付けの高い先)に融資するように」と誘導してきた訳です。1997年の三洋証券・北海道拓殖銀行などが破綻した金融危機をきっかけに創設された金融庁(金融監督庁)としては、当然の政策だったと言えるかもしれません。


格付け対策とは

このため当時の資金調達にあたっては、格付けアップ策が有効でした。「総資産の圧縮」や「有利子負債の圧縮」、「自己資本の増加」、「償却前営業利益の増加」などが有効だったのです。

なお、誤解のないようにご説明すると、これらの策が無益だったり有害だと申すつもりはありません。実際は逆で、優良な企業は「無駄な資産は持たない」、「有利子負債が過大でない」、「自己資本が多い」、「償却前営業利益が多い」などの特徴が見られます。このため、優良企業になるために、これらの指標改善を目指すのは素晴らしいことです。私としても是非にとお勧めしたいと思っています。しかし、これらの指標を、実質的に改善する努力を行うことなく、単に数字だけを改善する会計上の操作には、経営上のメリットはありません。そのような策が、以前は「格付けアップ策」として行われてきたのです。


金融庁の方針転換

その後、金融庁は2014年7月から金融機関に対する指導方針を大幅に変更して、企業の事業性を評価して将来性のある会社に対しては積極的にリスクマネーを融資するようにと呼びかけるようになりました。金融機関に対して2年に一度行う「金融庁検査」においても、債務者区分のチェックは行わなくなりました。これにより、金融機関は、債務者区分でもって融資判断する動機がほとんどなくなってきたのです。そのため以前のような格付けアップ策も、あまり意味のないものとなってきました。

以上は、中小企業にとって何を意味しているでしょうか?資金調達に向けての対策が「他人に頼んで形式上を整える」ものから、「会社(経営者)自らが稼ぐ力や財務体質の強化に取り組んでいく」ことに変わってきたということです。税理士さんに頼んで決算書上で「総資産の圧縮」や「有利子負債の圧縮」、「自己資本の増加」、「償却前営業利益の増加」などを行う意味は、薄れて来ました。自ら知恵を出し、汗をかいて「儲けを増やしていく」や「売掛金を回収する」を実践していき、「借金は借り換えではなく実質的に返済していく」、「自己資本を積み上げていく」ことが評価されるようになったのです。そのことが、資金調達に繋がります。

「そういう実質的な改善を実現しないと資金調達できないというなら、中小企業の経営は成り立っていかないよ」という声が聞こえそうですね。おっしゃる通りだと思います。金融庁も、「収益力や社内留保が一級の企業に融資するように」と言っているわけではありません。反対に「リスクマネーを融資するように」と呼びかけています。ここでいう「リスクマネー」とは、「収益力や社内留保、もしくは不動産担保などで返済が十分に裏付けられてはいるとは言い難いという意味でリスクがあるが、現在や将来の事業力を鑑みて貸出可能と判断されたお金」とでも言えるでしょうか。


中小企業が目指すべきこと

とすると、中小企業はこれから資金調達を考えるときには「現在、有望な事業力を備えている」、もしくは「今後に有望な事業力を会得し、それによって稼ぐことができる」ことを説明することがポイントになりそうです。実際、金融機関に対してこの観点で中小企業を審査するようにとの呼びかけが「事業性評価」の推進です。では事業性評価の時代、中小企業は何をしていくべきか、次回以降、考えていきます。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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