「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第139回

事業性評価の審査を受ける意味

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



先週、「年末の資金調達が難しくなった」との声があり、その理由の一つに「コロナ禍による売上低下等の影響で、中小企業の貸借対照表が悪化してきた(自己資本が減少、債務超過に陥っている企業さえある)」ことが考えられると、ご説明しました。


一時的な要因で債務超過になった企業が全て倒産する訳ではないので、実情をしっかりと把握すれば融資が可能な企業は多くあるはずですが、なかなかそれができていません。今、企業をしっかりと見て審査される制度であり、コロナ対策として推進されているのが、日本公庫等の「コロナ特別資本性劣後ローン」です。これに申し込むことで、厳しい状況下でも資金調達できる可能性が生じます。今日は先週に引き続き、この制度の事業性評価について、考えてみましょう。



事業性評価としてのコロナ特別資本性劣後ローン

資本性劣後ローンとは、出資と同じように、いざという時の回収がほとんどない貸付で、かつ、借り手は期日まで返済を行う必要がありません。危急時に売上低下等に困っている企業にとって、とても重宝する借入制度です。一方で貸し手としては「この会社が以前の元気を取り戻せる」という見込みがなければ、融資を行うことはできません。先ほどもお伝えしたように資本性劣後ローンは、いざという時の回収がほとんどない貸付なので、事業の回復に期待する度合いが高いのです。このため貸し手は、借入希望者の事業性を丁寧に解明しようとします。事業性評価を、行うのです。


筆者が、コロナ特別資本性劣後ローンの借入支援を行った例から公庫が行う事業性評価とその効果を、簡単にまとめてみたいと思います。すべての方に通用する話とは言い切れませんが、参考にしてみてください。


まずコロナ特別資本性劣後ローンの申込みには、事業計画書を提出することになります。公庫HPには国民生活事業の指定様式が掲示されています。様式が求める記入内容は、次の4項目です。

1. 新型コロナウイルス感染症の影響、今後の見込み 及び課題、項目、具体策

2. 業績推移と今後の計画(数値計画)

3. 借入金・社債の期末残高推移

(1年以内の民間金融機関による協調支援見込み)

4. 計画終了時の定量目標及び達成に向けた行動計画等

https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/shihonseiretsugo_ninnteishienkikan.pdf


この様式を見て、筆者は「この制度は『今はコロナだから売上・利益が減っても仕方ない』と考える企業には向いていないな。厳しい状況ながら積極・果敢に自らの道を切り拓こういう姿勢を望んでいるのだな」と感じました。今後に向けた取組み記載欄が充実しているからです。


中でも「課題、項目、具体策」は欄の大きさや、数多くの項目が列挙されていることに驚くかもしれません。しかしこれらの項目は、中小企業が事業の発展等を目指す場合に課題になりそうな項目ばかりです。その中から企業にマッチする項目を選び、右欄に取組み説明を加えると、自然に事業改善計画ができるように工夫されています。そうやって考えた課題解決に向けた取組みの効果を売上・利益予測として数値計画にまとめ、実現に向けたアクションプランをまとめる流れとなっており、とても考えられたフォーマットだと感じました。



事業性評価としての審査・効果

計画を提出したら、後は審査結果を待てば良いのかというと、そうではありません。計画内容について質問があり、時には資料の提出が求められます。社長の中には「面倒くさいな」と感じる方もおられるようですが、筆者は「質問や資料提出を求めることで、経営者が会社の将来を前向きに考え、具体的に行動を起こしていくように促しているのだな」と感じる場面もありました。


例えば「大口取引先について、去年から今年の動向を数字でまとめ、変化があれば特徴を教えて欲しい」との質問・資料要請について。それまで「お得意さま向けの売上がいつの間にか減っている。しかし最低量はキープしているので、ありがたい」と思っていただけですが、大口取引先への売上を月別にまとめ、変化について説明を考えるうちに「当社は大口取引先に信頼されているな」、「この信頼に今、答えるには、どうすれば良いのだろう?」と考えさせられました。「この考え方を適用できる先は他にないだろうか?」や、「違うパターンの取引先も分析して、対応を考えよう」という気持ちになります。


事業性評価の審査は、金融機関には「この会社に決算書では表現できない事業性がないだろうか。どうやって読み取り、稟議書に表現できるだろうか」という意識で行われていると考えられますが、対応している企業には「この担当者は我が社に『○○な事業性があるのでは?』と仮説を立て、質問しているな。今まで気付かなかったが、実際に、そういう事業性もある。これを育てていきたい」という気付きを与えます。これは得難い経験と言えます。是非、取り組んでみるよう、お勧めします。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACから まつながひでとし さんご提供によるものです。まつながひでとし さん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。