「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第172回

多すぎる借入に勇気を出して立ち向かう

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



東京オリンピックが始まって1週間が経ちました。連日の熱戦に心躍らせ、プレッシャーの中で最高のパフォーマンスをあげる選手の皆さんから勇気をもらったと感じる人も多いでしょう。東京オリンピックを尻目に記録破りの蔓延度合いを深めるコロナ禍にあって、この「勇気」はとても大切です。今はまた、多くの企業経営者が勇気を発揮すべき時となっているからです。


長引くコロナ禍を切り抜けるためにコロナ特別貸付・特別保証を利用して資金調達し、一方で売上が減少して「債務過多」になっている企業が少なくないでしょう。借入金額もさることながら、売上との対比で「年商の倍、あるいはそれ以上」になってしまっている企業もあると聞きます。その時は「必要だから、借りられるなら借りておこう」という気持ちで調達したけれど、今になって冷静に考えると未だかつてない借入額・率が恐ろしくなってきた、と仰る経営者もおられます。今日は、このような経営者の皆さんに、エールを送りたいと思います。



借入してくれて良かった

企業にとって一番怖いことは何か?「借入過多ではないのか?」という声も聞こえてきそうですが、違います。一番怖いのは、キャッシュが底を尽いてしまうことです。人体から血液が全くなくなると生命を維持できないのと同様、企業においてもキャッシュが無くなれば持続することはできません。これは絶対に避けるべき事態です。コロナ禍のような非常事態に会社を守るために借り入れるのは、必要悪というより、経営上の英断と言えるでしょう。


実際に筆者の周囲でも、借入過多ではないかとの疑念はよぎりながらも余裕を持った資金調達をしたら、その後の決算報告では金融機関から叱られると思いきや、「コロナ禍が当分続いたとしても会社を持続できるキャッシュをキープしておいてくれたおかげで、当金融機関としても支援を続けられる。良かった」と評価してもらえた、という声が聞こえています。



迅速に止血を

迅速な資金調達は褒められるべきですが、それで終わりにしていたら自分のためにはなりません。まずは止血を考えましょう。雇用調整助成金などの公的施策の利用は、皆さん、いの一番で取り組んでおられると思います。他にも止血策はないでしょうか。ある中小企業は業務を縮小性せざるを得なくなったので、知り合いの企業で従業員を働かせてもらうアライアンスを組んだと聞いています。


K字回復という言葉が語られる今、ある業界では働き手に見合う仕事がないという現象が起きている一方、別の業界では人員が足りないという現象も生じています。従業員の乗合は両者、そして両者の従業員も、最初は戸惑いがあったと聞いていますが、数週間もしないうちに「我が社(我が業界)では『解決策のない魔の問題』とされていたことの答えが、派遣された企業・業界では解決済みだった。とても勉強になった」という報告も聞かれました。新たな発見は新たな交流、新たな関係性の中から、とも言います。ピンチをチャンスに変えるきっかけにできるかもしれません。



売上拡大の努力

できるだけの止血策を行いつつ、売上拡大にも取り組みましょう。普段なら「宣伝をかける」、「キャンペーンを打つ」などが普通かもしれませんが、事業環境が変わった今、通用しない可能性があります。「では打つ手がない」と落ち込むのでは無く、打てる手を探しましょう。「売り先を変える」、「用途を変える」果ては「売り物を変える」などに踏み込む企業があります。


多くの飲食店が少なくなった通勤客から巣篭もりする近隣住民にターゲットを切り替えました。最初は店頭で弁当を売るだけだったけれど、それだけだと飽きられてしまうので一品ものの惣菜等も売るようになり、その種類を増やして、1年たった今はデリカッセンの店に様変わりした店もあります。「事業再構築」が自然と実践されているのです。


今年から始まった「事業再構築補助金」は補助額の大きさなどから話題を呼びましたが、1次公募の結果発表を見て「採択率が約40%とは、意外とハードルが高い」という感想を持つ人が多いと聞きます。この補助金が定義する「事業再構築」が「今まで手がけたことのない試みを行う」こと、そして「再構築した事業で是非とも血路を見いだして欲しい。安易なプランでは逆効果になりかねない」という事情からすると、ある意味、当然かもしれません。プランのブラッシュアップが肝心です。


昨年はコロナ禍に立ち向かう中小企業を支援するため、未だかつてない金融支援が行われました。それで多くの企業が会社を持続させられている反面、多くなりすぎた借入金に慄いている状況も見受けられます。会社を守る資金調達できたのは英断です。それを必ずや未来に繋げていけるよう、今度は行動する時です。明けない夜はありません。心を強くして、取り組んでいきましょう!




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACから fujiwara さんご提供によるものです。fujiwara さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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