「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第279回

黒字倒産を回避できる事業計画の主要素

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



今夏は花火など華やかな話題が一段と目立つ気がします。日本の夏は蒸し暑く世界でも過ごしにくいはずですが、インバウンドも衰えることなく続いているようです。このように明るい話題がある一方で、コロナ禍の不調から立ち直れない企業も少なくなく、二極分化が進んでいると感じられます。このところ中小企業の黒字倒産について考えてきました。今回は本小連載の締め括りとして、黒字倒産を避け得る計画について深掘りします。



実抜計画・合実計画の目指すもの

黒字倒産を避けるため事業計画を活用するようお勧めすると「それは難しいのではないか」と言うご意見をお聞きすることがあります。中小企業の皆さんだけでなく金融機関の皆さんからもお聞きします。詳しくお話を聞くとこれらの方々は、以前の実抜計画・合実計画がトラウマになっていると感じられます。

実抜計画とは「実現性の高い抜本的な経営再建計画」の略称、合実計画とは「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画」の略称で、いずれも2008年のリーマンショック時に金融監督指針及び金融検査マニュアル別冊の改定として設けられました。資金繰りで窮地に立たされた中小企業にとって返済条件緩和(リスケジュール)は効果的な支援となります。

しかし当時「返済期間延長」や「金利減免」などの条件変更に応じると、その債権は原則として貸出条件緩和債権となり、銀行法や金融再生法の規定する不良債権に該当するおそれがありました。そうなると金融機関では、貸出金に対する引当率が上昇してコストが増えると共に、公表される不良債権比率が上昇するのでリスケジュールに応じにくくなります。

このため事業再生して将来の返済が確実だと検証できる実抜計画・合実計画がある債権は、条件変更が行われても貸出条件緩和債権に該当しない取扱いが規定されたのです。実抜計画は「概ね3年後の当該債務者の債務者区分が正常先となること」が求められる一方で、中小企業ではリストラの余地も小さく黒字化や債務超過解消までに時間がかかるため、合実計画では経営改善計画の期間が「概ね5年」に延長されました。



実抜計画・合実計画に命を吹き込むパート

3年、あるいは中小企業の実態に合わせて5年をかけて正常先まで財務状況を回復できる、即ちストックでの累積赤字・債務超過の解消と、それを実現し得るキャッシュのインフローを描く計画があれば不良債権には該当しないと判断するのは、筋が通っていると感じられます。

それにもかかわらず金融機関のみならず中小企業さえ実抜計画や合実計画に消極的な思いを持っているのは何故か?計画が策定されても企業が立ち直らなかった例が少なくなかったからと考えられます。

筆者はコロナ禍以前に金融機関から数回にわたり、専門家派遣事業を利用した事業計画書の再策定を依頼されました。リーマンショックから約10年にわたりリスケジュールしたままの企業の支援です。これは金融機関にとっても中小企業にとっても辛い現象だったでしょう。金融機関としては融資事業を継続する原資が回転しないことを意味し、企業にとっては返済負担を負わないものの、例えば陳腐化した設備の更新原資を調達することはできないからです。

少なからぬ企業が計画を実行に移して成果をあげ、所定期間内に正常先に上位遷移できなかったのは何故か?専門家派遣で訪問した企業でもともとの事業計画書を目にするや否や、その理由は理解できました。それら全ての案件で、適切なアクションプランが設定されていなかったのです。

「新規先拡大」、「単価アップ」、「コスト削減」などの言葉が並ぶだけの、名ばかりのアクションプランでした。中には5年間の売上・製造原価・経費・利益を並べた数値計画しかなかった計画もありました。

計画書に「誰が、誰に対して、何時迄に、何を行う」との現場の行動に係るアクションプランと、「現場が適切に行動しているかを誰が、何時、どのように把握して、差異があればどのように対処する」とのマネジメントに係るプランがない計画は、現場にとっては実行のしようがない「ただの資料」です。

現場での取組とマネジメントを明確に定めるアクションプランが、計画に命を吹き込む主要素となります。「現場を動かせる計画を立てたいが、方法が分からない。」まずは取引金融機関に相談してみて下さい。StrateCutionsでもご相談に乗っています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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