「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第71回

事業性を上手く表現する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 先日、ある経営者の集まりで日本政策金融公庫担当者に「年末資金の調達方法」セミナーを行ってもらいました。講師を務めてくれた公庫職員は質量共に充実した資料を準備し、約2時間にわたり丹念に説明してくれました。そのポイントの一つは「融資審査の視点」です。決算書分析等による定量要因だけでなく、経営方針や今後のビジョン、経営改善の取組計画等の定性要因も鑑みながら審査を行うとのことでした。


 定量要因だけではなく定性要因も考慮に入れて融資判断するのは、実は、公庫だけではありません。民間金融機関も「事業性評価融資」として力を入れている場合があります。



チャンスを生かす

 金融機関が定性要因も鑑みて意思決定することは、決算書上では芳しいパフォーマンスをあげられなかった企業にとって、とてもありがたいことです。これまで金融庁は「金融検査マニュアル」に基づき「債務者格付け」という財務パフォーマンスを主に評価する仕組みでもって融資判断することを求めてきました。金融機関が「決算は芳しくないが将来性のある事業に着手し、成果を出しつつある」ことを評価して融資したとしても、もし金融庁にその申し開きをせざるを得ない場合には、その論理はほとんど受け入れられないのが実態でした。決算書以外の定性要因でもって「事業性がある」と評価して融資することは、これまで事実上不可能だったのです。しかし今、金融当局は「金融検査マニュアル」を廃止しました。金融機関は堂々と事業性を評価して融資できるようになりました。


 このように状況が中小企業に有利な方向に変わったにも関わらず、そのチャンスを生かしている企業はお世辞にも多いとは言えない状況です。この現象は、とても残念なことだと思い、筆者は「事業性評価融資を中小企業から提案する」ことを勧めています。


 一方で「金融機関が定性要因を考慮してくれる場合がある」と聞くと、「デフレで苦しいけれど、現場にハッパをかけて頑張っている」などの苦労話を金融機関担当者に滔々と語ろうとする社長さんもおられます。しかしそれには、ほとんど効果はありません。「なぜだ?さっきは定性要因も鑑みてくれると言ったのに。」はい、そう申しました。理由は二つあります。



現況はもちろん、事業性を語りたい!

 金融機関が「定性要因」を評価してくれると言いました。ではこれは「企業や経営者について、決算書で表現できない定性要因を全てプラスに評価してくれる」ことを意味しているかというと、そうではありません。事業を進めるに「頑張り」は大変重要ですが、「今まで数年間に行って成果が出なかったことを、これから今以上に頑張って行う」と言われても、金融機関としては、それを理由に融資するのは難しいのです。


 金融機関が聞きたい定性要因の一番は「今まで頑張っても成果がでなかったので、しっかり分析してみた。どうやら自分たちは、当社の強みにマッチせず、取り巻く環境もうまく活用できない試みばかりしてきたようだ。今後は当社の強みにマッチし、取り巻く環境もうまく活用できる方策を進めていく。それを○カ年計画としてまとめた」などの話です。それにプラスして「必要な資金について支援してもらえないだろうか?」と問いかけられると、金融機関としてはイヤとは言い難くなります。というか、大歓迎です。



口頭ではなく文章で語りたい!

 「よし分かった。将来計画だな。それならいつも自分の頭の中にある。それを担当者に語ってやろう。」それも、やめておくのが賢明です。金融機関担当者に話をしても、それは上司には伝わりません。「なんだ、コミュニケーションができていないな。」そうではありません。融資という、とても重大な意思決定をする上での判断材料は、担当者が「社長からこんな話を聞いた」と口頭報告するようなものではないということです。


 金融機関は「りん議(意思決定したい内容を記した書面を作成し、それに納得したら印鑑を押すという意思決定方法)」を使っています。皆さんが、りん議に印鑑を押す立場だと考えてください。経営方針やビジョン、経営改善計画のアイディア等を担当者が社長から聞き書きした場合と、経営者が作成した計画書等が添付された場合とでは、どちらにゴーサインを出すでしょうか?情報量の側面でも、社長の熱意が届くという側面でも計画書等の添付がある場合だと思います。


 金融機関が「事業性評価」をしてくれるのは、企業にとっては今までにないチャンスになり得ます。我が社の現状ばかりでなく将来性(事業性)に焦点を当てた計画書を作成して提出することで、そのチャンスをしっかりと活用してみてください。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。


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プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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