「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第186回

儲かる改善策を練る方法

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



令和3年もあと1月と少しを残すだけとなりました。「何か始めるには時間がない。それは来年からにしよう」その考えも悪くないと思います。しかし「だから今年に楽しめなかった分、思いっきり忘年会で楽しもう」と考えてしまったのでは、せっかくの時間が無駄になってしまうかもしれません。来年にロケットスタートを切れるよう、今のうちに考えるべきことを考えておくのです。


前回、新たな改善案を考えるにあたって成功例を参考にしたが、それをコピーしたのでは上手くいかない場合があることを、「自社製品が欲しい」と願って実現した企業を例にお伝えしました。今回はこの点を深掘りします。



成功例を鵜呑みにしない慎重さが必要

先週の例を復習しましょう。ある製造業企業が「下請けから脱却すべく、利益が取れる自社製品を開発したい」と考え、それを実現しました。最初は無理だと感じていたが、身近に成功した例を見て自分にもできると思ったのです。そして実際に自社製品開発に成功しました。自社の高度な技術をブラッシュアップし、自社では行えない工程は専門企業とも連携して製品化を成功させました。しかし事業的には成功しませんでした。


その理由はいくつか挙げられました。第1は、新製品の市場が非常に限られていたことです。自社には販売力がないので、出来上がった製品が優秀でも、製造業企業が直接に販売することは難しかったのです。そのため、業績を改善できる売上をあげることはできませんでした。


第2に企業間での連携も挙げられます。その会社は、製品化にあたって自分と同程度の、大きくても大企業とは言えない企業と連携しました。連携は容易でしたが、その後に連携企業から受注を受けることはありませんでした。自社製品の販売場面でも、それら企業とのネットワークは活用できませんでした。


一方で、その企業が模範とした企業は、自社製品を実現する場面で自分より規模の大きな企業や公設の試験機関(公設試)等と連携しました。このため最初には様々な苦難があったものと推察されます。大企業としては、中小企業からの連携申込みに違和感を抱いたかも知れません。しかし敢えて連携したことで、これら企業に自社をしっかりとアピールすることができました。高い技術力とあきらめない熱心さを眼前にしたので、「他でできなかった加工だが、できないか」という受注が舞い込むようになったのです。



プロジェクトはコピーできても儲け方はコピーできない

件の製造業企業はなぜ失敗したのか?「儲かること」にフォーカスした戦略を描かなかったことが原因です。「下請けは買い叩かれる。自社商品なら買い叩かれない」と考え、開発した自社商品は確かに買い叩かれませんでしたが、売れませんでした。


「いや、模範企業の製品も大して売れなかったが、会社はV字回復した。だから自分にも再現できると思った。」それなら模範企業の成功理由をもっと研究する必要がありました。自社製品は大して売れなかったのにV字回復できた理由は、新製品開発で連携した大手企業に技術力や製品実現に向けた弛まぬ努力を評価され、受注が舞い込むようになっことにあります。この企業の失敗原因は、自社製品開発というプロジェクトはコピーできても、儲け方まで自然にコピーできる訳ではないことに気が付かなかったことにあります。



儲けにフォーカスした戦略を練る

今、多くの「事業建て直しの秘策」が紹介されています。これらは企業が実際に建て直しに成功した実例なので、とても参考になります。一方で、「製造業では自社製品が切り札だ」とか「飲食店は小売業に転業するに限る」など、模範を鵜呑みにした実行は危険と言わなければなりません。これらの企業は多分もう一つ、「儲けにフォーカスした戦略を練った」という成功要因があります。それを抜かしては、自社の成功はないのです。


模範になる企業は、なぜ成功できたのか?自社製品開発にせよ転業にせよ、浮かんだアイデアについて、自社のビジネスモデルに照らし合わせて「どうやったら儲かるだろう」を突き詰めて検討したと考えられます。「一昔前は大企業にしか導入できなかった優秀な機械設備が、近年は中小企業にも手が届く」と気付き、一度は「長年の夢だった自社製品を手がけよう」と考えたかも知れませんが、「それでは儲からない」と気付いたのです。


でも、それであきらめませんでした。「大企業を巻き込んで取り組めば、自社の加工能力や粘り強さがアピールできる。すると受注に繋がるだろう。自社製品を持ちたいという願いと、大企業に信頼される企業になりたいという願いを両方叶えられる」との戦略を描いたのです。


長いコロナ禍のトンネルから抜け出ようとする今、起死回生策のポイントは「儲かるための戦略」にあります。人真似ではなく自社にマッチした案を策定しなければなりません。これが成功の鍵なのです。ぜひ、取り組んでください。StrateCutionsでもご相談に応じています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は 写真AC から bBear さん ご提供によるものです。bBear さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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