「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第217回

なぜ上手くいかないのか(みんな事にしない)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


コロナ禍が完全に解消した訳ではないままウイズコロナに突入、事業環境の変化に翻弄されている企業には、これまでの事業をもっと収益の上がるものなどにする事業改善、あるいは新しい取組を始める事業再構築が必要とされています。でも、少なからぬ企業・経営者が「事業改善や事業再構築に取り組んでも成果が得られないかもしれない」との懸念からか、二の足を踏んでいるように見えます。


倒産企業案件を1万8,000以上審査した金融マン、そして今は企業の伴走支援を行うコンサルタントとして観察したところ、企業立て直しを「経営者が自分事にする」ことと「従業員がみんな事にする」ことを疎かにすると、失敗の可能性が高まります。今回は「みんな事」にすることについて考えてみましょう。



社長の「自分事」だけでは不足、「みんな事」にする

会社の立て直しは、それが社長にとって「自分事」にならないと決して成功しません。会社の立て直しは「労力のかかる」、「気苦労の多い」、「さりとて報酬に直結しない可能性がある」取組なので、社員としてはできるだけ避けたいものです。経営者自身が自分事にしていないのに社員が自分事にすることはあり得ません。


では、経営者が「自分事」にすれば成功するのか?従業員たちも立て直しに必要な取組を行ってくれるのか?それだけでは無理でしょう。従業員が「労力のかかる」、「気苦労の多い」、「さりとて報酬に直結しない可能性がある」会社の立て直しに参加する上で、経営者が「自分事」にすることは必要条件ではあっても、十分条件ではないのです。取組を成功させるためには、会社の立て直しを従業員にとっても「みんな事」にする必要があります。「従業員を巻き込む」のです。


人はなぜ、困難で成否も不明な意欲的な課題に取り組むのか?偉人の伝記を読むと、彼らが「自分が目指したものが出来上がったら凄いことになる」というビジョンを描き、「これを私が実現しなければ他人には実現できない。もし実現できても、私が実現するより◯年も遅れる。私が実現するものほどレベルの高いものは作れない。だからこれを成し遂げるに最もふさわしいのは自分だ」と考えていたことが分かります。同様の心持ちになれるよう促すことで、従業員を巻き込むことができそうです。


「私が協力しなければ会社は立ち直らないかもしれない。もし可能でも、私が協力した場合より遅れたり、レベルが下がるかもしれない」と考え、「この会社は私にとって大きな意味があるので、自分が幸せになるために会社が栄えるよう手を貸すことが得策だ」とのビジョンを描いてもらうことで、「みんな事」意識が育まれるのです。



従業員の貢献を明確にする

ここで「従業員を巻き込む」の意味を、もう少し丁寧に考えてみましょう。「巻き込む」こととは「何かの活動に他人を力づくで関与させる」ことだとのイメージがないでしょうか?一方で、会社の立て直しの場合、力でもって参加させることはできません。それは、従業員の気持ちになれば分かります。「この会社は大丈夫だろうかという不安がある中、普段より仕事に負荷がかかって辛い。しかしその報酬をもらえる可能性は少ない。いっそのこと辞めてしまおう」と考えかねないのです。


逆に、「この会社は先行きが不安だが、社長は『会社を立て直す、不可能を可能に変える』と息巻いている。なんだか面白そうだし、成功したら私も冒険に成功した気分になれそうだ。自分の力を試してみるチャンスにもなるかもしれない。それなら、しばらく取り組んでみるか」という気分にさせることが「巻き込む」ことなのです。



従業員にとって「なくてはらない会社」にする

もう一つ、「従業員が『この会社は私にとってなくてはならない』と考えている」ことが、会社の立て直しを成功させる条件だと分かります。この条件は実は、人が働く場合には満たされていることが理想ですが、普段は「面白くないけど、辛いけど、それに見合う収入があるから許そう」と気にされないことが多いのです。しかし会社の立て直しの場合には、それがポイントになります。


「とは言え、従業員が『私にとってこの会社はなくてはならない』と考える理由は様々だ。全てを満たせる訳ではない。」仰る通りで応用は様々ですが「原点」はあります。「会社が、従業員をなくてはならない存在」と考えていることです。


給料面は難しいにせよ、勤務形態や仕事の習熟、人間関係等の悩みを親身に聞き、改善に向けて努力しているでしょうか?人には「返報性」つまり恩返しという情理が働きます。会社が従業員を大切な存在と考えることが、会社立て直しの原動力になるのです。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は 写真AC から FineGraphics さんご提供によるものです。FineGraphics さん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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