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第69回

年末の資金調達を考える

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

年末の資金調達を考える

 参加している中小企業者の団体の主催で日本政策金融公庫担当者から「年末の資金調達」セミナーを実施してもらうことになり、その打ち合わせをしていた時のことです。双方の日程を調整していくと候補日が 11 月も中旬にさしかかろうとするタイミングになりそうだった時、公庫担当者が「それでは年末の資金調達にはデッドエンドになりますね。大丈夫ですか?」と訪ねました。

 公庫の、特に初回申込みの場合には審査が一ヶ月前後かかることは承知していましたが、改めて考えるとその通りで、受講者に余裕を持って検討・計画してもらえるスケジュールにする必要がありました。今回は、計画性のある資金調達について考えてみたいと思います。


時間の余裕を持つという計画性

 「いつも借入をお願いする民間金融機関だと、そんなに時間はかからないぞ。公庫は時間がかかり過ぎなのでは?」と仰る社長さんもおられます。その気持ち、分かりますが、状況が違うと申し上げておきましょう。「いつも借入をお願いする金融機関」は、これまで(時には数十年間)の貴社とのお付き合いの中で、会社・工場・店舗を訪問し、社長とも面談し、数年間分の決算書も預かって分析しています。借入金の返済状況も毎月チェックしていますから、貴社の状況をかなり正確に把握していると言えるでしょう。

 一方で、融資を初めて申し込んできた企業についての情報は、限られています。金融機関が手に入れた情報はいえば、申込書に記載された企業概要と直近3年間の決算書、そして会社案内でしょう。「それで十分なのでは?」いえいえ、それでは「生身の企業」について知ることは困難です。商店なら何をどんな店舗で売っているのか、どの地域のどんなお客様から支持されているのか、トレンドはどうなのか、今後の経営環境はどうなのか・・・などを知らなければ、「この企業に融資しても大丈夫か」を的確に判断することは難しいのです。しかし金融機関は、初めての企業からの申し込みの場合には、それらの情報の大半を得られないままに、融資の判断をしなければなりません。当然、時間がかかります。このような金融機関の状況を踏まえて、計画的に、時間の余裕を持って年末資金調達を始めるようお勧めしているのです。


複数の金融機関と取引するという計画性

 「では、いつも取引している金融機関からだけ、融資を受けていれば良いではないか。」そう仰るお気持ちも分かりますが、今、一つの金融機関からだけ借入している状況なら、できるだけ複数の金融機関と取引することをお勧めしています。そうした方が、例えば景気下降期などで、ある金融機関が融資に消極的でも、他の金融機関に頼ることができる可能性が高まるからです。「自社がどの銀行から何円、何口、どのような条件で借りているか。毎月の返済額は何円で、いつに完済する予定か」を答えられないほど多くの金融機関から借り入れるよう勧めている訳ではありません。それは、中小企業レベルでは得策とは言えないでしょう。一方で、取引を1金融機関に限るのも危険です。リスクシェアできるよう、借入する金融機関も計画してください。


借入のタイミングを考えるという計画性

 「年末は節季の支払いが多くキャッシュが不足気味になる。だから資金調達する。」とても自然な考え方ですが、違う視点を持つと、もっと賢く借入できるかもしれません。年末だと手元のキャッシュが少ないので、「すぐに、金融機関のいいなりの条件で」借りなければならないことが多くなるのです。金融機関が「借りて欲しい」と考えているタイミングで借りると、より有利な条件で借りられる可能性が高まるでしょう。例えば年末だと新規の借入を起こさなければならない(口数が増えるので、同額を借りていても毎月の返済金額が多くなる)が、金融機関のキャンペーン時期だと、同じ金額を借り入れるにしても既存の借入と一本化に応じてもらい、返済負担を軽減できるかもしれません。金融機関によっては、決算期や半期には大々的にキャンペーンを打っていますから、その時期での資金調達を考えるのも、一つの方法と考えられます。


借入種類を考えるという計画性

 金融機関の中には今、中小企業への貸出に新たな選択肢を加えているところがあります(実際は「新た」ではありません。平成1桁時代までは行われていましたが、金融庁の指導により影を潜めていたのです)。それは「3ヶ月や6ヶ月など一定期間は返済不要の貸出。通称:短期転がし融資(短コロ)」です。これを活用できると、その借入金額については毎月の返済が不要なので、中小企業の資金繰りは楽になります。毎月の返済額が多くなりすぎると、以前にもご説明したように、借入金返済のための借入額が増加してしまう可能性がありますから、短期転がし融資の利用は借入金額の削減にも繋がる可能性があります。

 融資商品ラインナップに短期転がし融資があるか否か、あるとして、どのような顧客(中小企業)にどのような条件で提供するかは、金融機関によって違いがあります。短期転がし融資は金融機関にとって「元本が減らない」リスクのある商品なので、普通よりも少し高めの条件を設定していることが多いようです。みなさんの会社で利用が可能か、金融機関担当者に聞いてみてください。

 以上のように、今までは「例年通りの年末資金調達」と特段気に留めることなく考えたかもしれませんが、計画的に考え取り組むことで色々なメリットを手にできる可能性があります。是非とも前向きに検討してみてください。


<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。

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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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