「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第254回

ほどほど病を克服して資金調達を再トライする

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




前回、期待していた資金調達ができなかった企業について考えました。2023年3月期(以下、「前期」と言います)決算は前々期と比べて目覚ましく改善していたので企業としては満足して「融資も得られるに違いない」と期待していたにもかかわらず得られなかった企業です。今回はこの点について、対策を考えていきます。



積極的な計画でもって事業性評価に再トライする

コロナ禍で思うような事業活動ができなかった企業に「大変なご苦労をされましたね」と労いたいと思います。一方で「そうだ、我々は苦労した。だから救済されるはずだ」とのお考えは危険だということも、お伝えしたいと思います。特にコロナ特別貸付・コロナ特別保証を利用して資金調達したが今に至るまで売上・利益を十分に回復できず大幅な債務超過に陥ってしまった企業に融資することは、金融機関にとって非常に困難であることを念頭に置いて頂きたいと感じています。


「しかし我が社は登り調子なのに!」この場合、再トライとして事業性を評価するよう金融機関に提案する方法があります。しかしその提案をする前に、踏まえておきたい点が2点あります。1点目は「金融機関が事業性評価できる原理」を踏まえておくことです。金融機関は現在、いくつかのアプローチで事業性評価を行っていると考えられます。第1は「企業としては融資可能なレベルだが、要望額が大きすぎて断らざるを得ない」という場合に、応えられるよう事業性をチェックするアプローチです。


決算書等でスコアリングすると正常先に該当、それも下がり調子などの兆候もなく近未来に要注意先に転落する可能性は少ない企業に、これまでは月商3ヶ月程度の運転資金を支援してきたが今次、多額の積極投資のため従来額を大きく上回る融資申込があった場合に、事業性評価するのです。これは「事業性評価」という言葉ができる前から金融機関が実践していた審査で、金融機関が前向きになりやすいアプローチです。


第2は、企業の決算書等をもとにスコアリングすると要注意先や要管理先に該当するため「融資はできない」と判断される場合に、それでも申込企業の持続化を支援したく、融資の可能性を探る場合です。筆者がこれまで、このコラム欄でお話ししていた事業性評価は、こちらのカテゴリーに属しており、今検討しているケースにおいて再トライとして行う事業性評価もこちらに該当します。


スコアリングで「融資不可能」と判断された企業が、事業性評価で「融資できる」と判断されるロジックは、いかなるものか?「事業性評価で得られた結論でスコアリング結果を打ち消す」という使い方はしないでしょう。「スコアリングによる点数に、事業性評価による点数を加えて判断する」ロジックだと考えられます。


では金融機関はなぜ、事業性評価で加点ができるのか?端的に言えば「企業に内在する事業性が発露されたら、融資できる企業になれることに確証が得られた」からです。計画通りに実行して売上・利益が向上、財務体質が改善され、返済に懸念がない会社になれることを疑う理由が「ない(合理的なリスク許容範囲内で)」と言えるからです。時々「計画を立てても融資は得られなかった」というお話を聞きますが、多くは「それを実行しても企業は、金融機関が『融資できる』と判断できる水準に至らない計画」です。「楽に実現できそうな計画」がその水準に達する場合は少ないと、肝に銘じておいた方が良いでしょう。



計画の実現に真摯に取り組む・実績をあげる

一度は失敗した資金調達を事業性評価で再トライする場合に踏まえたい2点目は、計画の実現に向けて真摯に取り組むことです。事業性評価とは、決算資料等を定量的に分析して導き出した(客観性のある)スコアリング評価に、将来への取組予定に関するヒアリング等をもとにした(主観が入り込む余地が高い)評価で加点することです。


金融機関としては、結果的に倒産・貸倒になった時に「融資判断時に『この企業は計画を真摯に取り組まない可能性がある』兆候は見えていたではないか。それを過小評価して融資したとは、放漫審査ではないか」と誹られることは絶対に避けたいので、慎重に判断しようとします。前回に指摘した「ほどほどにしておこう病」が見え隠れしている先に事業性評価して融資できると判断することは、事実上ないと言えます。


では「ほどほどにしておこう病」が露呈してしまった企業に残された道はないのか?前回ケースの企業は金融機関から「数字が全て」と言われたそうです。裏返せば数ヶ月真摯に(必死に)取り組んで実績を出せば、改めて事業性評価してもらえる可能性があると解釈されます。最後の藁を是非、掴んでもらいたいと強く想います。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





なお、冒頭の写真は 写真AC からtetoraSNさんご提供によるものです。tetoraSNさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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