ハロウインが終わると、今や気が早いことにクリスマス・ツリーが飾り付けられますね。しかし資金調達についていえば、資金が必要になるのが年末であっても、今から準備し始めても気が早いことにはならないかもしれません。事業性評価融資を金融機関に提案する場合です。
今までの年末資金調達
「年末の資金調達はいよいよになってから。金融機関が忙しくてチェックが甘くなったところを狙って申込書を提出する。」以前、そういう声を、よく聞いていました。そして思ったものです。「そういう考え方では、結局はご自分のためになりませんよ。借金が増えるばかりです。それより心機一転、事業改善に乗り出しませんか?そのための資金を調達しましょう。お手伝いしますよ。」でも、なかなかそういうお話にはなりませんでした。そもそも、金融機関が、そういう話を聞いてくれるかどうか、分からなかったからです。
金融機関の考え方が複線化された
事業性評価融資によって、金融機関は、融資判断について「二つ目」となる考え方を手にしたことになります。これまでは、金融機関にとっての意思決定は単線で「債務者格付け」でした。シンプルにいえば、借入の申込人(債務者)の決算書を入手して、自分たちで決めたルールに基づいて評価し、自分たちとして「融資できる」というランクに位置付けられた企業に融資するという意思決定です。
これを聞くと「あれ」と思われる方もおられるかもしれません。「では、赤字企業だった我々は、どうやって資金を借りることができたのだろう?去年は現実に、借りれたのだが。」そうなんです。債務者格付けには抜け道がありました。「信用保証付き融資」です。100%保証の時代には、信用保証が付いたら金融機関にとって断る理由はありません。ノーリスクで金利が得られることが確実だからです。今では金融機関が一定割合を負担するのが原則ですが、多くの金融機関は信用保証を使って「困っているので助けて下さい!」の声に対応していました。
事業性評価は、ここに風穴を開けました。債務者格付けでは融資できなかった企業に、「事業性があるならば、つまり今後は儲かるようになって地域に貢献し、返済もできるようになる可能性があると評価できるならば、融資できる」という道筋を付けたのです。それゆえ、事業性評価融資によって融資判断の考え方が複線化されたと言えます。
「事業性を評価してもらう」というアプローチ
中小企業の約7割は赤字企業であるという事実からすると、債務者格付けの判断方式で「この企業に融資しても大丈夫」と太鼓判を押してもらえる企業は、そんなに多くはありません。大半の中小企業は、債務者格付けではない枠組みで評価してもらわなければなりませんでした。
それが信用保証協会による信用保証だったのですが、それにはデメリットがあります。一つは、低金利時代には少ないとは決して言えない料率の信用保証料を支払わなければならないということ、もう一つは、現場を改善しないまま信用保証協会の保証も受けられなくなったら、もう融資は受けられない可能性が高いということです。それは前途どころか退路さえも絶たれることを意味しています。
このような理由から、中小企業の皆さんには、事業性評価でもって融資を検討してくれるよう「金融機関に提案する」ことをお勧めしています。金融庁も金融機関に「事業性評価融資を行うように」と強く勧めています。それは、つまり金融機関が「債務者格付けでは融資が難しいが事業性を評価すると意外と高いポイントが得られそうな企業を発掘し、その企業にとって最善の融資を合意する」という意味です。
事業性評価融資のプロセス
「事業性を評価すると意外と高いポイントが得られそうな企業を発掘して融資する」というのは口で言うのは簡単ですが、実際は非常に難しい作業になると思われます。
では、金融機関は、それをどのようにやっていこうとしているのでしょうか?筆者が知り合いの金融機関から見聞きしたり、中小企業金融専門紙などからすると、概ね以下のようなプロセスで進めていこうとしているようです。
1. 事前情報収集
2. 訪問
3. 経営者との面談
4. 情報整理
5. 強み・弱みの分析
6. 融資提案
また、金融機関内で意思決定する場合には、以下の内容を稟議書に盛り込むこととしているようです。
・会社概要
・ビジネスモデル(仕入先・販売先)
・内部分析(組織図・業務フロー、強み・弱み)
・市場・競合分析(需要のトレンド・価格動向、機会・脅威)
・財務・資金繰り・借入の状況
・経営者
・経営課題と経営方針(問題と、解決の糸口となる強み)
・経営計画の概要
・投資計画(資金の必要性、返済の確実性など)
これらを見ると、かなり大変な手続きだと思われないでしょうか?そしてもう一つ、これを行う担当者は、多くの場合、事業性評価融資の専任担当者ではありません。今までも営業担当もしくは融資担当として仕事していた人たちです。金融機関の営業担当者は平均して200社程度、多い場合には300社程度の担当先企業を持っているといいます。つまり、大変に忙しいのです。座して待っていても、金融機関担当者が我が社に「事業性評価融資を受けませんか」と提案してくる可能性はほとんどありません。
中小企業の方から事業性評価融資を提案した場合
待っていても金融機関から事業性評価融資を提案してくれる可能性はとても低いと予想されるので、中小企業経営者には、自分から事業性評価融資を金融機関に提案するようお勧めしています。言葉を変えれば「立候補」する訳です。
では、立候補すれば、その後の手続きはすらすらと進んでいくのでしょうか?実は、そうではないと思われます。金融機関は、中小企業が立候補すれば、それをもとにすぐに審査に入る訳ではありません。先ほど言った
1. 事前情報収集
2. 訪問
3. 経営者との面談
4. 情報整理
5. 強み・弱みの分析
6. 融資提案
これらのプロセスを省略することは(原則)ありません。そうしないと「事業性を評価」することはできないからです。また、
・会社概要
・ビジネスモデル(仕入先・販売先)
・内部分析(組織図・業務フロー、強み・弱み)
・市場・競合分析(需要のトレンド・価格動向、機会・脅威)
・財務・資金繰り・借入の状況
・経営者
・経営課題と経営方針(問題と、解決の糸口となる強み)
・経営計画の概要
・投資計画(資金の必要性、返済の確実性など)
稟議書に、これらの内容を盛り込まれていない稟議書を作成することもありません。そうしないと「事業性を評価」することはできないからです。
中小企業が行うべきこと
これは、何を意味しているのでしょうか?年末資金を事業性評価融資で調達したいなら、時間が必要だということです。金融機関に検討する時間を提供しなければならないということです。その時間は、債務者格付けによる審査を行ってもらう場合の比ではありません。信用保証協会の保証を付す場合には通常より約1~3週間という時間がかかると言われていますが、それよりも、もっと時間がかかるでしょう。
しかし「事業性評価融資」は、時間をかけて取り組む価値があります。「債務者格付け」では融資が得られない企業にも、資金調達するチャンスが生まれるからです。その計画に従って頑張っていれば、継続して支援を受けられる可能性も高まります。
時間を短縮する方法
「それにしても、金融機関に任せっきりにしていると、年末に間に合わなくなるのではないか?」その通りです。「事業性評価融資を受けたい」と立候補しても、全てのプロセスを金融機関に任せていたら、年末の資金調達に間に合いそうのありません。どころか「これから忙しくなるので、そのような手間がかかることは後回ししてもらえませんか」と言われてしまう可能性があります。
では、年末資金を事業性評価融資で調達する方法はないのでしょうか?あります。金融機関が行う情報整理や強み・弱み分析、事業改善計画の策定、資金を必要とする理由や、資金導入効果などを、こちらからきちんとまとめて提出することによってです。つまり、事業計画書を作成して、提出するのです。こうすると、金融機関は、事業性評価融資のために行うべきプロセスにかける時間を飛躍的に短くすることができます。
一方で、中小企業が事業計画書を作るのは、そう簡単ではありません。事業性評価融資を提案する事業計画書は「存在すれば良い」という形式的なものではありません。金融機関が行う調査等を一部肩代わりする目的ですから、しっかりとした内容のものが必要です。だから、中小企業が事業計画書を作って事業性評価融資を提案する場合であっても、一定の時間が必要なのです。
価値ある取組み
「仕事が忙しいのに、そんなものを作っている暇はないな。」そう思う気持ちはよくわかります。しかし、そのままではいつか、信用保証が受けられなくなってしまうかもしれません。その時に前途も退路も絶たれるようなことにないようにするためには、今、事業改善に着手するのが最善の道です。今年の年末は、是非、「儲かる企業への生まれ変わり」を目指す切り替わりにしてみて下さい。
プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】

『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions