「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第196回

模範からの学びをブラッシュアップする

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



先週は「新たな取組」について、「自社の業績が向上し、体質が改善する」という実効性を基準に検討すべきこと、そのタネを探す方法として公開情報から模範を探す方法をお勧めしました。商工団体や役所の情報、例えば「中小企業白書」から参考になる成功例を見つけるのです。


こういうと「新しい取組と言いながら、世間的には新しくも何ともない取組も含まれてしまう」と疑問に感じる方も、おられるでしょう。しかしコロナ禍の中で自社を立て直そうとする時、言葉に引きずられて「新規性」それも「際立った」、「他人が感心する、誰も試みていない取組」を狙う必要はありません。コロナ禍が引き続いて体力が消耗した中では、危険すぎる場合さえあります。


ここでいう「新しい」とは、「これまでの経営努力では業績は改善しなかった。ここで、今まで行わなかった取組に業績改善のきっかけを探そう」と考え、「業績が改善して黒字化する、累積赤字を解消する、今後はキャッシュを内部留保して財務改善につながる」取組を探すという意味です。だからこそ模範を探す意味があります。今週は模範を見つけ方とその後に行うべき取組を考えます。



「模範」を探すメリット

事業改善の努力を勧めると多くの企業が「以前の取組」を再び始めます。以前に取り組んで効果があったものの、しばらく経って風化してしまったので改めて取り組むのならメリットはあります。


しかし、そうでない場合が多いのです。「他社では効果があったそうだが、自社では効果が上がらなかった」とか、「社員から抵抗が大きくて、効果が出るまでもなく、いつの間にか取り組まなくなった」という取組を再び開始してしまうのです。しかしそのような取組は、無駄に終わる場合が多いでしょう。


模範を探すメリットは、この罠に陥らずに済むことです。中小企業にとって、時には大企業にとっても、当社の「枠」や「殻」を打ち破る発想を得るのは容易ではありません。だから失敗に終わった取組をリピートしてしまうのです。他社の成功事例を見ることで、その弊害を打ち破ることができます。大企業同士だと市場が隣接しているので真似の効果は限定的かもしれませんが、中小企業の場合はデメリットよりもメリットの方が大きいのが普通です。是非、試してもらいたいアプローチです。



似た企業を探す

模範を探す時には、まず「自社に似た状況の企業が如何に成功したか」という視点で探します。業種・規模・サプライチェーン・顧客層・取引形態が異なる企業を模範に学ぶ方法もありますが(ベンチマーク)、それは高等テクニックです。初めて「新たな取組」にチャレンジする場合は、自社に似た企業から模範を求めるのが適当でしょう。事業や保有資源、事業環境等について予め自社分析して、これらの点で自社と類似することを確認しながら情報に当たるのが効率的だと考えられます。



自社との違いを見つけ、オリジナリティを加える

一方で「似た企業でとても参考になる模範を見つけた!それを完全コピーしよう」と考えると、少なからぬ場合で失敗します。それはなぜか?模範となった会社がいくら自社と似ていると言っても、事業や保有資源、事業環境等に違いがあるからです。例えば模範企業と自社は若いビジネスパーソンをメイン顧客とする点で似ていても、模範がビジネス服を扱い自社は普段着を扱うなら、同じ取組に対する反応が異なるかもしれません。事業上は全く同じだとしても、模範が路面店で自社はショッピングモールのテナント店では、同じ取組での成果に差が出るかもしれません。以上がたまたま全く同じでも、関東と関西で違いが生じる可能性があります。


「なんだ、そんな細かい違いを気にしなければならないなら模範を探すメリットはない」と思われるかもしれませんが、それは模範に求める効果を取り違えています。先にご説明した通り模範を探すメリットは、自分が陥っている思考の「枠」や「殻」を打ち破ることにあります。模範を見て「その手があったか!自分では思いもしなかった」と思い着くことができれば、それで十分なメリットが得られたのです。


では次にどうすれば良いのか?従来の「枠」や「殻」を打ち破ってブレークスルーできた発想で、自社に最適な解を考えていくのです。その解が模範の取組と同一であったとしても、自社と模範の違いをしっかりと見極めた上なら、必要なアレンジが見えてくるでしょう。自社に最適なオリジナリティを創造していくのです。このような思考プロセスを経ることで「新しい取組」の成功確率を高めることができると考えられます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は 写真AC から bBear さんご提供によるものです。bBear さん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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