「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第207回

OODAでどんな結論を描いていくか

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



ここ数回にわたって事業環境の変化に対応するために役立つと思われるOODA思考についてご説明しています。戦後日本は品質改善を目指す思考法として開発されたPDCA思考を活用、コストカット等にも応用して、目標に向かって漸進的な変化(カイゼン)を遂げて世界に冠たる産業国となりました。しかし現在のように事業環境が急速に変化している中、飛躍も可能にするOODA思考が鍵になる可能性があります。今日は、OODA思考でどんな結論を描いていくのかについて考えます。



OODA

OODA思考(Observe(観察)、Orient(方向付け)、Decide(判断)、Action(行動)において最初の“O”2つ、Observe(観察)とOrient(方向付け)が鍵になると、前回にご説明しました。PDCAサイクルは「品質」など大きな目標に向かって改善を行なっていく思考法で、「売上が拡大しない・減少してしまう」という現象を見た時(Check)には必ず「鍵は品質にある」という枠の中で個別対策を考えます。


一方でOODAループの場合には、Observe(観察)の次にあるOrient(方向付け)において一定の方向性を強いる「枠」はありません。「高品質で売上維持・拡大を目指す」でダメだったら「次には価格で勝負する」、更に「付加的サービスを強化する」、「ブランド作りする」、「固定客として囲い込みをする」、あるいは「今作っている製品では市場を広げられないので、他の製品も手掛ける」や「いっそ、利幅の大きいサービス業に転換する」と考えることも可能です。実際、この思考ができることがOODAの醍醐味なのです。


こうご説明すると「OODAとは自由な発想で試行錯誤する思考ツールなのだ」とお考えになる方もおられるかもしれません。OODAが戦闘機による空中戦での対応がベースであることを考えると、その指摘は的を射ています。


しかし中小企業が活用する場合には工夫が必要です。戦略論の分類によると、OODAにより幅広な発想で試行錯誤しながら時々の状況に対応するのは「コンティンジェンシー」と呼ばれる非常にレベルの高い戦略です。この戦略は、訓練された十分な従業員、充実した資源、豊富な資金、良質で協力的な取引先等に恵まれている企業にこそ勧められると言えそうです。



シミュレーションしてOODAを使いこなす

一方で従業員の人数や訓練が不十分な、機械装置などの物的資源も充実しておらず、資金が不足気味で、良質あるいは協力的とは言えない取引先等と協働する企業(ほとんどの中小企業)は、OODA思考で得られた発想をそのまま実行して試行錯誤すると、成功する前に体力を消耗し尽くす可能性があり、お勧めできません。


「なんだ、勧められない思考法を紹介したのか?」そのような意味ではなく、試行錯誤する前に十分に検討することをお勧めしたいのです。得られた案を実行前にシミュレーションし、成功可能性が高いと考えられるなら実行します。成功可能性が低いと考えられるならOODA思考で別案を検討します。アイデアそのものは秀逸ならPDCA思考でブラッシュアップすることが可能かも知れません。


「案の検討・シミュレーションはどのように行うか?」新たな取組の方向性や目標、戦略、アクションプラン等を事業計画に落とし込み、実行した結果に得られる業績を数値計画として作成、検証する形で行います。「計画なら何とでも描ける。」そうではなく、計画した行動を本当に実行できるか、現有資源で可能か、従業員に能力があるか、経営陣や管理職はマネジメントできるか、必要な社外の協力は得られるか、成果は得られるか等を厳しめに見積もり「この計画なら確実に実行でき、期待する業績も得られる」と確信が持てるようにするのです。


シミュレーションで「実行が難しい」あるいは「期待した業績が得られない(例:洋食屋がラーメン店に業態転換しても売上・利益への反映はわずか)」と分かれば踏み込んではなりません。OODAループを回し、もう一度プランを立てます(例:洋食屋が惣菜製造・小売に転業すると、売上は向上して赤字は解消するが、借入金を減らせるほどのキャッシュフローは出ない)。時には複数案を組み合わせることで、実行可能で成果に繋がる案を描けるかもしれません(例:惣菜販売に転業、店頭売りに加えてEC通販も手掛けて全国を市場として取り込めば、借入金を徐々にではあるが減らせる売上・利益が出る)。


こうやって「これ以上の案は現時点では思いつかない。成功可能性もある。これなら大丈夫だ」と確信が持てる案が描けたら実行に移します。OODAは今、多くの企業にとって必要な思考法と言えます。是非使いこなして、起死回生を遂げてください。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から photoB さんご提供によるものです。photoB さん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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