「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第194回

事業環境分析を行う2つの眼

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



本コラムは今年に入ってから、コロナ禍に翻弄される中小企業が乗り切っていく方法として「新たな試み」をテーマに連載しています。前回はその前提となる自社分析についてご説明しました。今回は自社の周囲について、すなわち事業環境についての分析を考えていきます。



事業環境分析を今、行うべき2つの理由

事業環境分析をお勧めすると、時々「今は、そのようなことをするタイミングではない」との声を聞くことがあります。「今はコロナ禍という異常事態なので、それを分析しても意味はない。コロナ禍が終わってから行うべきだ」との趣旨のようです。しかし今、事業分析を行う意義が2つあります。


一つは「今の事業ではコロナ禍が終わるまで持ち堪えられない企業は、何らかの手を今、打たなければならないので事業環境分析が必要である」という理由、もう一つは「新型コロナウイルス感染症の蔓延が今、止まったとしても、自社の事業環境が昔に戻るとは限らない。違った環境に落ち着く可能性がある。その先を的確に見通せる可能性を高めるために、現時点の事業環境分析が有効である」という理由です。



事業環境分析を複眼で行う必要性

事業環境分析を今、行うべき2つの理由は、実は現状分析を複眼で行う必要を示唆しています。これをコロナ禍による影響を深刻に受けている飲食店が事業環境分析を行う場合を例に、考えてみます。


ある駅前に立地する飲食店が、コロナ禍による行動制限や自粛等の理由で売上が大きく低迷しているとしましょう。これまで大変でしたが、コロナ特別融資を活用したり、休業助成金などを利用するなどして何とか乗り越えてきました。一方で2022年の1月末の時点で第6波が猛威をふるっています。一度は収束したかと思ったら、しばらくすると別の株が現れて新たな波を引き起こしてしまうという流れを見ると、第6波が過ぎ去れば新型コロナウイルス感染症の蔓延そのものが終わると予想するのは楽観的に過ぎると、この飲食店経営者には感じられました。もちろんいつかは収束するのでしょうけれど、それまでに会社が持続できるかというと、資金の流失スピードからすると現実的ではないと感じられました。何らかの手を打つことの必要性が感じられたのです。


ではどのような手を打てば良いか?自社分析によると厨房などの物的資源や料理人などの人的資源の優位性が明らかで、惣菜小売店に転業するのが自然の流れのようですが、もう一つ、事業環境分析も行うのが賢明です。


事業環境分析の第1の眼は「現時点で打つべき策を考えようとする眼」で、短期的・静態的なスタンスです。例えば「お客が減った理由を行動制限や自粛だと思っていたら、付近にある大企業の事務所が撤退していた」という事実が判明するかもしれません。この分析に基づくと「当店顧客のかなりの割合が当該事務所に勤務していたビジネスパーソンなので、コロナ禍が過ぎ去っても顧客は帰ってこないだろう」という結論が導き出され、惣菜小売店への転業を後押しする理由になりそうです。


事業環境分析の第2の眼は「結果的に将来、成功できる策を考えようとする眼」で、長期的・動態的なスタンスです。短期的・静態的分析に基づいて「当社は飲食店から惣菜小売に転業する」と考えたとして、コロナ禍が終わったら事業環境はどうなっているでしょうか?「周辺地域でも以前の飲食店が惣菜店に転業した例があり、そのトレンドは今後も続きそうだ。スーパーマーケットも惣菜を充実させているようだ」という現象が見られるなら、コロナ禍が終わると惣菜店は供給過剰に陥っているかもしれません。


ここで3つの選択肢が出ました。第1は「飲食店を続けると決める」、第2は「惣菜店に転業すると決める」、第3は「もっと分析を深める」という選択肢です。


第3を選んで、さらに自社分析や事業環境分析を行うのが賢明かもしれません。例えば「増えつつある惣菜店の商品(和風・洋風・その他)や価格帯は如何か?競合が集中する分野あるいは空白分野はないか?そうなる理由はなぜか?」や、「今はテレワークが広く行われているが、コロナ禍後はどうか?」などの視点で分析するのです。そこから得られた情報と更なる自社分析情報を加えると「エスニック料理は空白となっており、自社も対応は可能である」と分かり、「堅実な需要があるか、拡大するかの分析が必要」と気付くかもしれません。こうやって情報を増やし、対応策の精度を上げていくのです。


新たな取組を行おうとする時、自社の都合だけでなく事業環境を含めた多面的な分析により成功確率を向上できると考えられます。是非、トライしてみてください。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は 写真AC から mybears さん ご提供によるものです。mybears さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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