「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第99回

金融の変化に対応する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

最近、”FinTech(フィンテック)”という言葉をよく聞きます。デジタル化や人工知能を金融の世界に活用したもので、今後、どんどんと台頭していくと考えられています。


コンピューターOSを提供するWindowsマイクロソフト社創始者のビルゲイツはすでに1994年に「金融サービスは必要であり続けるが、金融機関は必要なくなる(Banking is necessary, but banks are not.)」と予言したと言われています。これは、主体者(金融機関)にもしっかりと考えてもらわなければならない命題ですが、利用者も無頓着でいられる訳ではありません。今後、FinTechが進展していった場合に、事業資金調達はどうなるか?それを見越して企業はどのように考え行動したら良いのか?今回は、それについて考えてみましょう。



FinTechとは

FinTechとは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語です。金融サービスと情報技術を結びつけることで、これまでのサービスが高速・省力化されるばかりでなく、今までなかったサービスが可能になることを指しています。資金調達の分野では「指定された会計ソフトを利用し、必要な要件を満たしていれば翌日など今までは考えられなかった期間内に融資の決定が下され実際の送金が受けられる」というサービスがあることを耳にされた読者も多いことでしょう。今後はインターネットやスマートフォンを使いながらより高速に、またAI(Artificial Intelligence、人工知能)、ビッグデータなどを活用してユニークで精緻なサービスが提供されると考えられます。金融機関を介さずに資金の貸し手と借り手を直接つなぐサービスなども台頭しています。


FinTechにできること・できないこと

FinTechを活用した事業資金調達が今後、どう展開していくのか?それを考えるにあたって「FinTechにできることと、できないこと」について考えてみたいと思います。特にAIを活用した融資審査がどのようになるか、一部将来に想定されることも含めながらまとめてみました。


<できること>

・顧客企業からの決算書データを迅速・緻密に分析する。

・口座履歴等から事業活発度や今後の趨勢等を分析する

・口履歴にある取引先の業況や将来性を参照、好調先・不調先の取引状況等から当該企業の事業性を推計する

・ネット上の露出や趨勢等から事業活発度等を分析する

・ネット上にある評判等をピックアップして集計する

・以上を総合して企業の現状や将来性を推測する


<できないこと>

・集めた情報の事情を問う(業績の低下があったとき、外部要因か、当社に理由があるのか、判断できない)

・集めた情報の戦略性を問う(業績の低下があったとき、戦略意図があるのか、ないのか、判断できない)

・集めた情報の真偽を問う(悪い評判が立ったとき、それが真実なのか、デマなのか、判断できない)

・集めた情報の意味付けをする(悪い評判があったとき、それが致命的なのか、軽微なのか、判断できない)

・定性情報でもって判断する(将来の地歩固めのため、今は下地作りしているとの事業計画書を評価できない)



FinTechがもたらす「事業改善」の価値

以上、FinTechができること、できないことを挙げてみました。この分析から「優良企業は、FinTechは適切に判断できそうだ。その場合のメリットは現状と比較して絶大と言える」と読み取れます。決算書や調査会社、インターネット上の情報にネガティブ要因がなく、決算書を見れば「この会社は素晴らしい会社だ」と言える企業は、FinTechを使うことで「融資申込が簡便で、審査が迅速」などの大きなメリットを受け取れそうです。


筆者は、このメリットに与れるよう目標にしてもらいたいと考えています。「このところずっと少額の赤字だ。黒字化を目標にしているが達成、税金を考えると『これでも良いか』と考えてしまうからだ」という企業があったとしましょう。人が判断する場合、その事情は斟酌してもらえるかもしれません。しかし、FinTechは事情がわかりません。「どんなに頑張っても黒字化できなかった。今後の将来性は暗い」と判断される可能性があります。そうならないためは?是非、事業改善に邁進して下さい。



平均的な企業は?

「事業改善に邁進しろという話、よく分かったが、当社の場合は『頑張っているけれど、目を見張る成果は出ない』というのが等身大なのだ。でも、だからといって我が社が倒産寸前という訳ではない。その逆だ。金融機関が手を引いてしまうことさえなければ、我が社は地元でしっかりと事業を継続し、貢献し続けることができる。」実際、そのような企業がほとんどではないかと思います。しかし、そのような企業がFinTechから適切に評価されることは(今のところ)少ないでしょう。では、どうすれば良いか?FinTechではなく、今まで通りのきめの細かい会話をしっかり行ってくれる地域金融機関と付き合うことがポイントになりそうです。この意味でも「金融機関を選ぶ時代」になってきたと言えます。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>





なお、冒頭の写真は写真ACからacworksさんご提供によるものです。acworksさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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