「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第152回

事業性評価で金融機関が見ていること

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



新型コロナウイルス感染症の第3波でうなぎ上りだった感染者数が緊急事態宣言の発出で減速しましたが、ここにきて減速スピードが鈍化しているとも報道されており、予断を許しません。そのような中、政府は「新型コロナウイルス感染症で資金繰りに不安を感じている事業者の皆様へ」と題するパンフレットを発行、中小企業の資金繰りについて支援する姿勢を示しています。日本公庫や商工中金による「新型コロナウイルス感染症特別貸付」、あるいは信用保証協会の信用保証を利用した「セーフティネット保証」について、「状況に応じて、複数回の利用も可能です。」という言葉も、付け加えられています。

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/shien-flyer.pdf


これを見て「我が社は、複数回利用はできなかった」と言われる企業・経営者も、おられるでしょう。当コラムでも、複数回利用したい場合の注意点などをお知らせすると共に、政府に対しても複数回の資金調達が必要になった企業に円滑に対応できる貸付制度・保証制度(コロナ特別長期融資・保証)を提案してきました。「では、改めて申し込みをしよう」とお考えの企業経営者も、少なくないでしょう。そういう皆さんに、今回はメッセージをお送りします。以前に同様の状況にある中、筆者が審査で出会った案件などを基に、感じたことなどです。



まず、やるべきことをやる(失血を止める)

資金は企業にとって血液にも例えられる、重要な存在です。景気の急激な悪化で、企業では失血がどんどん進んでしまいます。「今まで十分な資金をキープしていたのに底を尽いてしまった」という企業も多いことでしょう。その場合、事業を継続するには、会社を持続させるには、資金調達して補充するしかありません。


一方で資金調達した後、止血措置を全く行っていないため資金が再び不足する企業が少なくありません。その理由を問うても曖昧な答えしか返ってこないのです。「コロナ禍がこんなに長引くと思わなかったので、事業縮小措置は採らなかった」という返事があれば、現状を客観的に分析しながら、今後を考えられます。しかし、今までについても、今後についても、曖昧な答えしか返ってくることはなく、「コロナが悪い、コロナが憎い」という言葉しか聞けないと、今後もまた、同様の状況が続いてしまうのではないかと、疑問を持ったまま、りん議を進めていくしかなくなります。



将来を構想する

このような不況下で資金調達する企業の皆さんに、金融機関はもう一つ、今後の展望をお聞きします。筆者が審査をしていた時も、そうでした。すると多くの経営者が「将来について何も分からない。景気が何時、どのような形で回復するか分からないのに、展望しようがない」と言われます。今後3年から5年の売上・利益計画を立てるようにとお勧めしても、当時、作成する方はほとんどおられません。将来を知る由もないのに、金融機関はなぜ、展望を聞くのか?予言を求めているのではありません。「ご自分がどうするのか」をお聞きしているのです。将来を構想するのです。


「コロナ禍で困っている。資金調達したい」との声に対応したのが、昨年の春から夏にかけて、でした。今は、将来を構想してもらいたいと金融機関は考えています。「コロナ禍により売上が半減して利益が吹っ飛び、赤字に転落した。その対策として固定費を最大限節減し、販路拡大のため新しく通信販売事業を始めて社員一同SNSで情報発信し、最近は軌道に乗りつつある。それでもキャッシュの流出は止まらないが、ワクチン接種も始まったので、1年後には終息するのではないか。それまで事業を続けられる資金を調達したい」というお話があれば、相談に乗れるかもしれません。



夢しか叶わない

「そんな『計画を立て、努力したら何とかなる』だなんて、夢みたいな構想を立てさせるよりも、単純に『困っているなら支援する』で良いではないか」という声も、あるかもしれません。筆者は日本公庫で約30年、倒産企業の審査をしていました。もちろん全てとは言いませんが、倒産した企業のうち少なからぬ企業は、将来を構想して計画的に事業改善の取組みを行なっていたら、倒産を防げたのではないかと思います。


多くの方々が「計画通り進展しないので、計画を立てる意味がない」と仰いますが、計画のメリットに「思った通り進展していない。改善が必要かもしれない」と気付くことがあります。計画を立てることによって、思惑通りには進展しない場合でも目標を見失うことはなくなり、不測の事態にあってもぶれることのない方向性で対応して、遂には実現できる可能性が高まります。ある意味「夢しか叶わない」のです。ぜひ、このことを心に留めて、計画的に事業に取組み、その姿をきちんと金融機関に伝えることで、資金調達を実現して頂ければと願っています。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>



なお、冒頭の写真は写真ACから FineGraphics さんご提供によるものです。FineGraphics さん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。