「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第40回

取引する金融機関を戦略的に検討する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
金融庁森長官の考えを世の中に知らしめた『捨てられる銀行』でも再三強調されているように、金融庁は地域金融機関に「中小企業の支援をするように」との呼びかけを強めています。一方で、地域金融機関の側はなかなか準備が整っていないようです。事業性評価融資を積極的に推進していると公表している金融機関は、今のところ存在しないようです(著者調べ)。

この状況でも、中小企業の側からしっかりとした事業計画書を作成した上で借入を申し込んだ場合には、受け取って、これまでの「債務者格付け」とは違った視点で融資判断してくれる金融機関もあるようです。いくつか金融機関の門を叩いているうちに、事業性評価で融資してくれる金融機関に出会える可能性は、決して低くはないようです。

このように取り組んでいくと、結果的に皆さまがお取引している金融機関は、事業性評価でもって融資判断してくれた金融機関と、応じてくれなかった金融機関に分類されることになるかと思います。その場合、どのように対応していけば良いでしょうか。応じてくれない金融機関との取引は止めた方が良いのでしょうか?


しばらく静観する

こういう質問があった場合には、一般的には「しばらく静観しませんか」とお返事しています。現在は、事業性評価融資を依頼しても、金融機関の側は「準備万端」とは言えない状況です。「準備不足とはけしからん、そのような金融機関が付き合うに値しない」とのお気持ちも分かりますが、長年、金融機関に勤めた経験からすると、準備に慎重になる金融機関の気持ちもわかります。

融資の方針を決めるとは、お客さまから預かったお金をどう使うか、すなわち確実な先で運用するかリスクをとるかの判断をすることとイコールです。あまり冒険はできないという判断は、ある意味、誠実な姿勢なのかもしれません。そういう金融機関を気ぜわしく「付き合う必要はない」と判断し、今までの取引実績を無にしてしまうのは、あまり得策でないと思われます。


対話を続けて出方を探る

以前にご説明したことと重複しますが、事業性評価融資の申し入れを受け入れてくれなかった金融機関には、その理由を質問しましょう。事業計画書を取り出し、いくつかのポイントを挙げながら理由を説明してくれた場合には、事業性評価融資を検討してくれたと見ることができるでしょう。今後、計画書を磨くことによって、対応してくれる可能性があるかもしれません。

一方で「支店長から(本部から)決裁が取れなかった」と説明してくれた場合には、事業性評価融資を検討してなかった可能性があります。聞いた内容は、是非、記録しておいてください。

そうするうちに、時間は流れます。次の資金調達が必要になった時には「また融資の申し込みをしたいと思っています。前回と同じように事業計画書を作成してお届けして良いですか?」と聞いてください。「はい、頂きます」と答えるようだったら、事業性評価融資を検討してくれる可能性があると理解できます。「いいえ、通常の申込書で結構です」と答えるようだったら、「債務者格付け」の考え方で審査する可能性が高いのかもしれません。それが何度も続くようなら、その判断に間違いはないと見て良いでしょう。

このようにして金融機関との対話の中で相手方の姿勢が明らかになってくると、金融機関を色分けして、取引の方向性を見直していくことができるようになります。長期的観点で、資金調達やリスク軽減の観点で判断していくのです。


事業性評価融資を検討してくれる金融機関が存在しない場合

もし、取引金融機関の中に事業性評価融資を考えてくれる金融機関が一つもないようであれば、是非とも開拓して下さい。現状、「我が金融機関は事業性評価融資を積極的に推進している」と公表している金融機関はないようなので、お近くの金融機関に自分からアプローチするのが近道だと思われます。とは言っても、初対面の相手に「我が社を事業性で評価して融資してくれますか?」と聞いても、逆に警戒される可能性が高いです。段階を踏んでアプローチする必要があるので、それは次回にご説明します。


事業性評価融資を検討してくれる金融機関が存在する場合

では、事業性評価融資を考えてくれる金融機関が一つ、もしくは複数ある場合に、事業性評価融資を考えてくれない金融機関との取引は止めた方が良いのでしょうか?その質問については、やはり「しばらく様子を見ましょう」とお返事しています。

理由の1つ目は、その金融機関は、今は事業性評価融資を検討してくれないが、将来は検討してくれるようになるかもしれないからです。理由の2つ目は、(取引金融機関が多すぎて管理できない状況でもない限り)複数の金融機関との取引を維持することは、万が一の時のための保険になるからです。

例えば我が社が苦境に陥った場合に、どの金融機関が助けてくれるでしょうか?我が社の苦境について、何をどの程度に評価して「こんな会社とは付き合えない」もしくは「まだなんとかなる」と意思決定するかについては、金融機関ごとのばらつきがあります。以前は親身になってくれた金融機関は今期は収益が厳しいので辛く当たり、冷淡に感じられた金融機関が今期は好調なせいか(もしくはキャンペーン中なので)快く応じてくれる、という事態も生じ得ます。このような状況を考えると、今まで支援してくれた金融機関との取引を一時の割り切りで止めてしまうと、後々になって不利な状況に陥る可能性があるでしょう。


金融機関が多すぎる場合

一方で、今まで付き合ってきた金融機関が多すぎる場合には、事業性評価による融資を検討してくれず、債務者格付けによる融資にも厳し目な金融機関とは、取引を縮小していっても良いかもしれません。「金融機関が多すぎる」かどうかの判断は、主観によりますが、例えば以下の基準を参考にしてください。
・決算書が完成したら報告に行きたいが、数が多すぎるので全ての金融機関を訪問することができない
・取引金融機関からまんべんなく借り入れようとするために借入額が少額になって口数が増え、毎月の返済金額が不必要に多くなってしまっている
・取引金融機関に「メイン」「準メイン」の感覚がなく、全てが「その他大勢」という姿勢になっており、いざという時に親身になってくれる金融機関がいない


取引する金融機関を戦略的に検討する

現在は中小企業向け金融が「債務者格付けによる融資」から「事業性評価による融資」へシフトしている途上と言えます。状況が変化している時期は、もしかすると、方向性を大胆に切り替えるには不適切な時期かもしれません。そういう意味で「事態を見守りましょう」とお勧めしています。

しかしそれは、何も感じる必要はない、何も考える必要はないという意味ではありません。逆にアンテナを高くして、今回ご説明した方法などを用いて、是非、取引金融機関の姿勢を敏感に察知してください。そして時期が来たら取引すべき金融機関を選択できるよう、記録に残しておいてください。そのような判断をすべき時は必ず来ますし、もしかしたら意外と早く訪れるかもしれません。

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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