「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第66回

金融機関との付き合い方を考える

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 会社としても、個人としても、ビジネスでも、プライベートでも、相手との関係は大問題です。特にビジネスの場合には、相手と自分との関わり方や力関係等を考慮に入れながら、どのような関係を築くか、維持するかを慎重に考え、実現しようとするでしょう。上手くいけば良いですが、もしそうはいかなかったら、是非とも修復して希望する関係が築けるようにと努力すると思います。


 しかしなぜか、金融機関との関係まで考えている社長は、意外と少ないようです。ビジネス上の付き合いの中で金融機関との関係ほど大切な関係は他にないと言えるのに、ほとんどの社長は、金融機関との関係は成り行きまかせです。少し工夫すれば随分と関係が改善されるはずなのに、工夫しようとする社長ほとんどいません。今日は、この点について考えてみたいと思います。



希望をきちんと伝える

 企業支援の場で、しばしば感じることは、自分の希望をしっかりと伝えていない社長が少なくないことです。例えば「運転資金を借りたいのだけど」、「検討します。如何ほど必要ですか?」、「いくらだったから貸してくれる?」という会話がなされたりしています。金融機関と長い付き合いのある零細企業に、このような企業が多いようです。理由を聞くと「我々のような零細企業の言い分なんか、金融機関は聞いてはくれないよ」か、「あの金融機関とは長い付き合いなので理解してくれる。あうんの呼吸だよ」などの答えが帰ってきます。しかし、本当にそうでしょうか?


 金融機関の融資は、法律的には「双務契約」つまり借主ばかりではなく貸主もそれなりの責任を負う契約関係になります。一方的に、金融機関の事情をごり押しして良いという関係ではありません。ましてや両者の関係は、一回の取引で終わるのではなく、借り換えたり借入を増やしたりなど継続する関係なので、良好なコミュニケーションが大切です。このため地域中小企業支援を旨としている金融機関なら、借主と良好なコミュニケーションを取りたい、維持したいと思っています。そのチャンスを中小企業の思い込みで失うのはもったいないことです。


 また「金融機関とはあうんの呼吸なのでコミュニケーションは必要ない」という言葉も、多くの場合、幻です。そのような企業が、実際、借りたいと思った時に借りられないという場面に多く遭遇しています。にもかかわらず、このような事態のことを「避け得る事態」とは考えていないので、前述のような言葉になるのでしょう。「このような事態の多くは、コミュニケーションを密にしていれば避けられたのに」と伝えると、多くの場合、驚かれます。それを知らずに肝心な時に資金調達できないのは、とても残念なこと、どころか時には中小企業にとって致命的なダメージを与えてしまう結果になりかねません。



相手の意図を聞く

 金融機関との関係向上のため励行してもらいたいもう1つは、相手の意図を聞くことです。特に、融資を断られた時には必ず理由を聞いて下さい。「断られたのだから、それ以上に理由を聞いても仕方がないではないか」とお考えの社長が多いようですが、実はそうではありません。金融機関が融資を断る場合には必ず理由があります。それを解消すれば次は融資してもらえるかもしれません。


 例えばある社長さんは「地元金融機関の姿勢が、最近、厳しい」と感じていました。思い当たる節もないそうです。理由を聞くよう勧めたところ、金融機関の答えは「一定の融資残高を超える申込みについて、関係会社への貸付を解消するよう依頼したのに、それに対応してくれなかった。それで残高を増やすことはできなかった」というものでした。一方の社長さんは、悪気があって無視していた訳ではなく、大した問題ではないと思って聞き流していたとのことです。貸付金といっても莫大な金額ではなかったので、関係会社名義で加入していた保険を解約して貸付金を返済することで、関係を正常化できました。



金融機関を選ぶ

 以上のようにお話しすると「結局は、中小企業は金融機関に歩み寄れということだろう。言うことを聞けということだろう」との感想を持たれる社長がおられますが、そういう意味ではありません。そこまで中小企業がしっかりと対応して、その上で金融機関の対応が芳しくないと思われるなら「他の金融機関は違う対応をするかもしれない」と考えてみることも必要です。金融機関を選ぶのです。


 金融機関は、メガバンクも地方銀行も信用金庫も信用組合も「融資をする」という同じサービスをしていますが、その考えは同じではありません。「融資に力を入れるか、手数料が得られるサービスに重点を入れるか」の基本的方針や、得意とする地域や業種、規模などに違いがあります。金融機関としての違いがあるだけでなく、支店長や担当者によって微妙な違いが出ることもあるほどです。


 そのため、ある金融機関、ある支店、ある担当者とうまく関係を築けない場合には、他の金融機関を試してみることができます。付き合う金融機関を増やすのです。そうする中で、良好な関係を築ける金融機関が見つかるかもしれません。そうすれば、取引のウエイトをそちらに移していくことができます。中小企業が、金融機関を選ぶのです。


 金融機関は中小企業にとって、最も大切な取引先の1つです。良好な関係を築けるよう、細心の注意を払う価値があります。特に難しくはありません。他の取引先との関係を考える場合と同じです。是非、試してみて下さい。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。


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プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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