「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第262回

中小企業の存在意義となる需要・供給要因

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



今、少なからぬ中小企業にとって事業改善が急務となっています。その基本は売上拡大で、高付加価値化などによる「単価の向上」と、リピート率向上や販路開拓などによる「売上個数の増加」に分解できます。こういうと「それらは全て実施したけど成果が出ないから困っているのだ」との声がありそうです。この場合、自社の存在意義を考え直すことが必要かもしれません。



自社の存在意義を確認するアプローチ

今まで十分な売上があり持続可能な利益をあげていた中小企業は、その存在意義を顧客や市場から認められていたと考えられます。今はそれほどの売上・利益が得られないならば、事業環境の変化等の理由から自社の存在意義がいつの間にか希薄化してしまったのかも知れません。では、どうすれば良いのか?既存の顧客や取引先、あるいはそれらを包含する地域やサプライチェーンなどにおける自社の存在意義は失われてしまったかも知れませんが、他で新たな存在意義が生じているかも知れません。そのようなポジションを探すという手があります。


それを行う前提として、これまでに自社がどのような存在意義を打ち立てていたか理解することが出発点です。「難しいな。」中小企業の存在意義を要因別に整理すると、容易になるかと思います。前回「需要要因」、「供給要因」、「市場要因」そして「戦略的要因」の4つを挙げ、概略を考えました。今回は前2者を掘り下げてみます。



需要要因

需要要因による中小企業の存在意義とは、需要側の「自ら手掛けるよりも、中小企業が存在して手掛けてくれた方がありがたい」という意味合いです。大企業が中小企業を下請けとして利用するのはこの存在意義によるもので、典型例を自動車製造業に見ることができます。自動車の生産にあたり特殊な形状の小さな部品が1台につき1個必要な場合に、トータルで1万台生産するにしても、その部品を自社で生産したのでは割に合いません。このため「需要が少ないものの欠かせない」品やサービスの提供は、中小企業の存在意義となるのです。


「当該品・サービスにコストをかけられないので、間接費が少ない中小企業に担当してもらいたい」という事情もあるでしょう。生産台数が1万台なのか1000台なのか先が読みにくい時、1000の部品の全てを自前で生産していたのではリスクが大きすぎますが、1000の企業から仕入れることでリスクをシェアできます。また、自社が片手間で生産するよりニッチ市場に特化して高品質等を実現する外部企業から仕入れた方が信頼性等が高まる場合にも、中小企業が存在する需要要因となっています。


自社の存在意義が需要要因にある中で、生産拠点を海外に移したとか海外業者を利用可能になった、部品を各々購買して自社で組み立てるのではなく一連の装置として納入する業者が現れたなど、元請企業に中小企業を頼る理由が失われたなら、これを自社の力で回復させるのは難しいでしょう。このような状況に直面した中小企業は、元請・下請関係が今でも国内で活発な他業界等にシフトするなどして対応しているようです。



供給要因

供給要因による中小企業の存在意義とは、供給側の「要求に対応するには成長できない。中小企業に留まるしかない」という意味合いです。大量生産できない製品が低価格で取引されている場合、間接費等が少ない中小企業が担当した方が有利です。分業が細分化している場合も同様です。


製商品の変化が激しい場合、規模の経済原理で動く大企業では在庫リスク等が大きくなり過ぎるので中小企業の方が有利でしょう。生産技術の変化が激しい場合や、生産能力(人材を含む)・体制の維持が高額・専門的でリスクがある場合も同様です。


存在意義が供給要因にある企業も環境変化による需要減少に直面しますが、少なからぬ企業が取引先を増やして対応しています。東京墨田区の浜野製作所は高額・専門的でリスクある生産能力(人材)・体制の確立・向上を極めたことで、新製品開発を行う大企業にとって不可欠なパートナーと認知され、どんどんと取引先を増やしています。こうなると相乗効果で大企業側に「外部企業から仕入れた方が信頼性等が高まる」効果が生まれ、鬼に金棒の境地にまで達することができたのです。

<浜野製作所URL>

https://hamano-products.co.jp/company/




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





なお、冒頭の写真は 写真AC から 上州太郎 さんご提供によるものです。上州太郎 さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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