「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第224回

雨の日に傘を借りて土砂降りに見舞われたら

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



「金融機関は晴れの日に傘を貸して雨の日に回収する」と言われています。中小企業からすると残念な対応ですが、「金融機関が仕事する原理原則」を考えると自然な行動なので、うまく活用できる方法を以前に考えました。

https://www.innovations-i.com/column/sme_fs/51.html


一方で、コロナ禍ではかなり違った状況となりました。コロナ禍が蔓延し始めてすぐに政府はコロナ特別金融支援制度(政府系金融機関による特別貸付と信用保証協会を利用したゼロゼロ融資などの特別保証)を準備、中小企業の資金調達をこれまでになく手厚く支援したのです。このためコロナ禍は未曾有の経済インシデントであったにもかかわらず、これまで倒産は低水準に抑えられてきました。先ほどの慣用句からすると「雨の日に傘が借りられた」という新しいバージョンが生まれたわけです。



傘を借りたが、それを吹き飛ばすほどの土砂降り

ここでコロナ禍が当初に予想されたように数ヶ月、長くて半年程度で収まっていたら問題はなかったでしょう。実際、それを前提としてコロナ特別金融支援制度が運用されたと感じています(借入金額が月商3ヶ月分、長くても6ヶ月分程度とされたケースが多い)。しかし皆さんも痛感されているように、現実はそうはなりませんでした。コロナ禍は2年半以上にわたり蔓延を続け、今、重症者は少ないが病床使用率は高い水準で推移しています。以前のような厳しい行動制限要請はありませんが、経済活動は元には戻らず、インバウンド関係は最低レベルです。新たに発生したロシア・ウクライナ戦争も相まってあらゆる生活・産業物資・製品が不足・価格高騰して「今は土砂降り」と感じる企業も少なくないでしょう。


土砂降りでも、借りた傘で凌げるなら、あまり問題はありません。しかし、実はそうでないことが問題です。昨年・一昨年に借りられた資金は先もご説明したように数ヶ月~半年の資金不足に対応したものだったので、今は使い切ったという企業が少なくないでしょう。一方で、コロナ特別制度では普通よりも長めの据置期間が設定されていたとはいえ、そろそろその期間が終わって返済が始まる企業が多いのです。コロナ前の業況には到底及ばない中での返済開始に「この状況では返済は不可能だ」と感じている企業が、少なくありません。



「リスケジュールを依頼する」という奥の手

返済原資がない状況での返済開始への対応方法として第1に「据置期間延長を目的とした借換」があります。昨年・一昨年に借りた資金を返済して同額を借りる契約を新たに結び、新契約でもう一度、据置期間を設定するのです。素晴らしい方法ですが、しかし、利用できる企業は限られているでしょう。新規契約での審査をパスできる企業が少ないのです。「状況は先のコロナ金融支援制度を利用した時とほとんど変わらないのに?」会社の状況はほとんど変わらずとも、決算書は激変しています。先回の資金を使い切っても返済していない状況では、決算書貸借対照表の自己資本が当該額マイナスとなり、少なからぬ企業が債務超過に陥っているからです。


次善策はリスケジュールです。現在の契約で、返済開始予定日を後ずらし、あるいは棚上げする変更契約を結ぶのです。政府の依頼もあって、金融機関は借入人(企業・個人:住宅ローン)からリスケジュール依頼があれば原則、対応しているようです。但しこの方法は「奥の手」でもあります。リスケジュールを受けた企業は解消されるまで、新たな融資が原則、不可能になるからです。


一方で、会社継続にリスケジュールが不可欠なら決定を遅らせてはなりません。延滞を起こしては、リスケジュールの相談さえ不可能になる可能性があります。



事業改善に計画的・真摯に取り組む

会社を本当に継続したいなら、リスケジュールを行なった場合はもちろん借換ができた場合でも、立て直しに向けた事業改善に計画的に取り組む必要があります。この2年半で「コロナ禍が過ぎ去るまで待つ」姿勢では道は拓けないことが明確になったからです。自ら道を切り拓けるよう計画し、真摯に実行しましょう。


「計画を立てたら必ず会社は立ち直るのか?」もちろん確約はできません。しかし、計画を立てずに立ち直った会社はほとんどありません。適切な計画を立て、真摯に取り組んだ企業だけが立ち直るチャンスを掴むのです。「会社を立て直す適切な計画を立てたいが、一人では難しい。実行はなおさら難しい。誰か、伴走支援してくれないだろうか」と思われるなら、地域の「よろず支援拠点」あるいは取引金融機関などにご相談ください。伴走支援の実績あるStrateCutionsでもご相談に乗っています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から 四季空 さんご提供によるものです。四季空 さん、どうもありがとうございました。







 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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