「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第134回

コロナ特別長期貸付の特徴

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



先週「コロナ特別長期貸付(新型コロナウイルス感染症特別長期貸付)」を提案しました。コロナ禍が予想外に継続している状況で資金が尽きかけている中小企業に、事業継続に必要な資金を提供する制度です。




本制度の最も肝心なポイント:事業性評価

最初に、この支援制度は今までの枠組みを拡張するものではないことを、強調しておきます。この制度の運用主体となる政府系金融機関や信用保証協会は、長引くコロナ禍で苦しむ企業を支援するには従来パラダイムを拡張するアプローチでは対応できないと感じていることは、想像に難くありません。


今までのパラダイムは、日本政策金融公庫にしても信用保証協会にしても、既存の制度について、特別な要件を満たす者に特例として与信枠を広げる形で設定されていました。もし、ある企業が既に日本公庫の特別貸付、もしくは信用保証協会の特別保証を利用しているとすれば、金融機関としてはその企業について可能な限りの支援はしたと考えていることでしょう。それから約半年経って、既に一度借入をしているにもかかわらず資金の流出が止まらないので再度申込みがあったなら、制度としての枠が広がったとしても、企業への支援枠を広げるのは難しいと感じてしまうのです。


もし、このパラダイムのまま支援を拡大するよう政府系金融機関や信用保証協会に促すとすると、平成10年頃にあった特別保証制度(中小企業金融安定化特別保証制度)で用いられたネガティブリストのような仕組みにせざるを得ないでしょう。ネガティブリスト方式とは、「当該リストに記載された事項に抵触しない限り、信用供与すること」と定める方法です。この支援により倒産の危機から救われた企業は多かったのですが、一方で信用保証協会ひいてはそれをバックアップする信用保険制度に多大な資金負担を負わせたことが課題となりました。


それはつまり、金融支援では救えない事情があった企業に対しても金融支援だけで対応してしまったので、本当に必要とされる支援が提供できなかったと解釈できます。


では、どうすれば長引くコロナ禍で苦しむ中小企業を支援できるのか?答えは「事業性評価」しかないと考えられます。担保・保証がなくても事業性に着目して行う融資、現在に返済能力が認められなくても、資金支援により苦境を生き残り、時が来ればビジネスをしっかりと回して返済できるようになる事業改善に取り組むよう、企業を導きながら審査して行う融資です。




コロナ対策特別長期貸付

「コロナ特別長期貸付」は、以下の通りとします。

・資格:中小零細企業(個人事業者を含む)

・金額:7,200万円(日本公庫国民生活事業)

   :7億2千万円(日本公庫中小企業事業)

・金利:新型コロナ対策資本性劣後ローンで適用される税引後当期純利益額が0円以下の場合と同様

・期間:20年以内

・据置:1年間(1年後にコロナ禍影響が残る場合は 延長可能)




新型コロナ対策資本性劣後ローンとの対比

以上の概要を見て「金額や金利など、新型コロナ対策資本性劣後ローン(以下「コロナ資本性ローン」と言います)と似ているな」とお感じになった方が多いと思います。その通りです。この制度は、せっかく設けられながら利用が進まないコロナ資本性ローンと並立する制度として、一旦はコロナ資本性ローンと同じ財源で運営されることを目指した制度です。


この設計は、コロナ資本性ローンの次のような特徴を踏まえてのことです。

・他の貸付制度とは切り離されたユニークな制度である。

・当該制度としての財源が確保されている。

・審査において事業性評価を前提にしている。


一方でコロナ特別長期貸付は、コロナ資本性ローンと異なる点もあります。それは疑似資本性(「本件借入金を資本金とみなす」特典)が、ないことです。実は筆者は、コロナ資本性ローンを非常に高く評価しており、この制度が設けられたのでコロナ特別長期貸付を提案する必要はないと考えていました。しかしコロナ資本性ローンが活発に利用されているとの話は、聞いたことがありません。


その要因には「知られていない」もあるかと思いますが、もう一つ「本件借入金を資本金とみなせるとは、本制度を運用する政府系金融機関が民間金融機関に『この企業は大丈夫だ。支援して欲しい』と宣言する責任を負わされている」ことを意味するからではないかと考えています。政府系金融機関は民間金融機関に安心材料を提供することに見合っただけ、審査の基準(ハードル)を上げなければならないという意味です。


これは企業の存続を目指す観点での事業性評価よりも、ハードルが高い可能性があります。コロナ資本性ローンは素晴らしい制度なのでこれは残すこととして、擬似資本性はない分、企業の実情に見合った事業性評価がされる制度として、コロナ特別長期貸付を提案する次第です。



<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。





なお、冒頭の写真は写真ACからまぽ (S-cait)さんご提供によるものです。まぽ (S-cait)さん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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