「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第212回

事業改善のナッジ(成功のきっかけ)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



コロナ禍は収束せずにウイズコロナの時代に突入してしまい、半導体や材料・資材不足や燃料の高騰などから大打撃を受け、ロシアによるウクライナ侵攻により更に先が見通せない状況になりつつも、転業や新製品開発・新市場開拓などのイノベーションに踏み込むことが難しい企業が存在します。それでも持続化・起死回生を目指すなら事業改善を目指すしかありません。前回は「コスト削減・効率化」と「市場を増やし、顧客のすそ野を広げる」という方向性について考えてみました。今回は、取組をどうやってスタートできるかを考えてみます。



取組をスタートさせられない理由

「コンサルタントは良いよ。事業改善として『コスト削減・効率化を進めよう』もしくは『市場を増やし、顧客のすそ野を広げよう』と言っていれば良いのだから。しかし、それを実際に手掛ける経営者の身にもなって欲しい。コスト削減・効率化や市場の拡大、顧客裾野の延伸は、企業にとって永遠の課題だ。どう取り組めば良いのか、そう簡単に答えが出る訳ではない。だから始めることさえ、難しいのだ。」その通りだと思います。


例えば前回、コスト削減・効率化に向けたIT活用をご提案しました。日本の中小企業の多くがIT導入で遅れているため、これを導入することでコスト削減や業務の効率化を目指せる場合があるのです。一方で「そうか、IT導入が切り札になるのなら前向きに考えたい」と取組を始めようとすると現場担当者から反対があるかもしれません。


例えば「知り合いの職場でITシステムを導入したそうだが、今まで活用していた情報が扱えないので以前通りの手作業が残ってしまったそうだ。多少は手間が省けたようだが、不慣れな作業が加わったので神経を使う。以前の方が良かったと聞いている」と、自社で同じ問題が生じないか不安になっているのかもしれません。もしかすると経営者自身がそのような話を聞いて、二の足を踏んでいるのかもしれません。


このような疑念を抱いている人に「いや、それは限られた事例だ。ITを導入した企業はだいたい上手くいっている」と答えたとしても、納得し辛いでしょう。問題は統計的平均値ではなく「私の会社は成功するのか?私の仕事は楽になるのか?」だからです。



「楽な取組」ではなく「楽しく取り組む」を目指す

「IT導入で楽になる」というキャッチフレーズ。決して嘘ではなく、実際に大きな収穫が得られる場合がほとんどですが、それには「超えなければならない山」があることにあまり注目されていないような気がします。先程の「ITシステムを導入したが今まで活用していた情報が扱えないので以前通りの手作業が残ってしまった。手間が2重になった」も、超えるべき山だったのです。その会社は、ITシステム導入のため、これまでの手作業を分析し、使えるシステムを選択、導入後は仕事の手順や作業を変更するという山は超えましたが、導入したシステムでは扱えない仕事があったという山は越えられず、結果として大きな成果を得ることは出来ませんでした。このため「それまで払った努力は何だったんだ!」というネガティブな思いが表に出てしまったのです。


では、どうすれば良いのか?もう一息頑張って「導入システムでは扱えない仕事も合理的に処理する方法を考える。できればITシステムに統合する」という山を超えるのです。そうしたら倍加した手間と労力を超える成果が得られて「導入して良かった」と思えるでしょう。


事業改善(そしてイノベーションでも)に取り組むにあたっては、実は「超えたと思ったらまた山があった。いつまで山を超えなければならないのか」いう気持ちになることが多いと思います。というか、そのような状況がほとんどです。このような事態に「明日は楽(らく:手が抜ける)になることを目指して頑張る」という気持ちで取り組むと途中で萎えてしまうことが多いのです。それよりも「今日を、楽しく頑張る」という気持ちを持った方が、成功が得られる可能性が高いのです。


「問題に取り組むこと自体を楽しむのは難しい。なぜ自分だけが、そんなに苦労しなければならないのか?」そう思うなら、一緒に楽しみながら取り組む仲間を作りましょう。まず2つの世界で仲間を得ます。一つは同じく経営改善に取り組む他社の経営者、もう一つは社内で仕事する従業員や統括する管理職です。「今まで何度も経営改善に努めたが成功しなかった」という経営者の話を聞くと、これら2つの仲間を持っていなかった場合がほとんどです。これら2つの仲間を見つけることが事業改善のナッジとなり、達成に近付く原動力になります。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から ieppei さんご提供によるものです。ieppei さん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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