「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第233回

中小企業対策を期待しつつ自助努力する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



政府が10月28日に「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策(以下『総合経済対策』)」を発表したことで、「どんな中小企業支援策が盛り込まれるのだろう?手厚い支援が盛り込まれるか?」と期待する経営者も少なくないでしょう。ゼロゼロ融資の借り換え制度、経営者保証人を原則として求めないこと、ひいては借入債務の減免までが議論されているそうですから、「我が社も優遇措置の対象になると恩恵は大きい」と期待を膨らませるのも当然だと思います。ただ、もし「優遇措置が受けられる前に努力するのは『骨折り損』だ。当面の間、努力はほどほどにしよう。新規借入して凌ぐことに期待しよう」と考えるなら、それはとても残念なことです。



ゼロゼロ融資の借り換えに期待する場合

なぜ「優遇措置により救済される可能性があるなら、それ以前に努力するのは骨折り損だ」と考えることが危険なのでしょうか?そう考えると、自社の立ち直りが遅れてしまう、時には不可能になってしまうのと共に、用意された支援策の恩恵を受ける可能性を潰してしまう結果にさえ、陥るかも知れないからです。


まずゼロゼロ融資の借り換え制度について考えてみましょう。今はその詳細は提示されていないので、現時点で得られる情報をもとに筆者の責任で、予想される運用を元にご説明します。民間金融機関によるゼロゼロ融資は最大6,000万円でしたが、借り換え制度の限度は1億円と設定される可能性があるとの報道もあり、「6,000万円の既往借入について返済を棚上げしてもらえる上に4,000万円の追加融資が得られれば、当社の資金繰りはかなり楽になる」と考える経営者は多いことでしょう。


一方で、その制度が「6,000万円の既往借入について返済を棚上げした上で4,000万円の追加融資を与える」かは不明です。4,000万円は、ゼロゼロ融資以外の既往コロナ特別保証も一本化して借り換えられることを意味し、新規融資は想定されていないかも知れません。返済負担の軽減を意図しているだけで、手元のキャッシュを増やす目的に応える制度ではないかも知れないのです。


加えて、その制度がゼロゼロ融資を利用した全ての中小企業に利用できるかどうかも、分かりません。営業実態等によっては借り換えできない可能性も危惧されます。例えば、ゼロゼロ融資の直後に事業を休止してしまっていると、融資資金は仕入れや経費、つまり「事業資金」には使われていないだろうと考えられ、事業資金として利用した証拠が出せない限りは借り換えが認められないと判断される場合もあるかと推察されます。返済負担の軽減さえ、実現できない場合さえ、あるかも知れません。



経営者保証の不徴求に期待する場合

また、法人である中小企業が借入を行う場合に経営者の連帯保証を求める慣行を止めるよう要請(あるいは禁止)されることへの期待も、高まっているようです。それが実現すれば「今はもう与信枠一杯に貸し出しているので、追加融資は認められない」と言われた企業でも資金調達できるかも知れないと期待しているのです。


しかし金融機関は中小企業が期待するようなロジックで考えるでしょうか?保証は、返済能力の補填として徴求されます。事業からの最終利益と減価償却費の合計額が返済額よりも多ければ返済能力ありと認められます。あるいは借入金と同一かそれ以上の現預金がある場合にも認められるでしょう。最終利益と減価償却費の合計額が返済額の半分程度以上あれば、例えば返済期間5年の借入なら半分の2年6ヶ月後に折り返し融資をすれば返済を続けられそうなので、事業が堅実に行われる限り返済能力ありと判定されるかも知れません。以上に当てはまらない場合には、万一の時に換金して返済に回せる不動産等を担保として徴求するか保証人を徴求しなければ、預金者から預かった大切なお金、決済等に使わなければならないお金を貸し出すことは難しいのです。


以上の状況から「ゼロゼロ融資の借り換え制度、あるいは経営者保証人の免除制度ができたら資金調達できて一息つける。その時まで努力するのは骨折り損だ」と考えるのは危険なのです。


では、どうすれば良いのか?今のうちから売上・利益を増やす経営努力を行うよう勧められます。それを行うことで、自力で返済できる金額が増え、手元に残る金額も増えるでしょう。それを評価して、借り換えや代表者保証外しを前向きに検討してもらえるようになるかも知れません。「わかった、事業改善に取り組もう。誰かと相談したい」と思われるなら、地域の「よろず支援拠点」あるいは取引金融機関などにご相談ください。StrateCutionsでもご相談に乗っています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は 写真AC から coji_coji_ac さんご提供によるものです。coji_coji_acさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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