「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第54回

メインバンクを持つべきか?

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 金融機関からの資金調達をご支援していると「メインバンクを持つべきだろうか?」というご質問を、多く受けます。「今の時代、金融機関には自分がメインバンクだという意識はない。だから、いろいろな金融機関と浅く広く付き合った方が良いというアドバイスを受けた。メインバンクを持つメリットは、そもそもないと言われた」というコメントが付け加えられる場合もあります。金融機関自身にメインバンクの意識が希薄になったという指摘には「おっしゃる通り」と感じます。しかし中小企業の皆さんには「メインバンクを持ちましょう」とアドバイスさせて頂いています。今日はこの点について考えてみたいと思います。



メインバンクの定義

 「メインバンクというものは存在しない」と考えるか、それともやはり存在すると考えるかは、「メインバンクとは何か」の定義によると思います。「メインバンクとは、ある企業について積極的に支援してくれる金融機関のこと。もし赤字になったとしても、捨て身の姿勢で支援してくれる」という意味だと考えると、そのような金融機関は、今やほとんど存在しないと言わざるを得ません。もし企業がメインバンクが欲しいと思っても、それを作ることはできません。そんな存在になるかどうかは、金融機関の意思にかかっているからです。

 一方で「メインバンクとは、これまでの状況から一歩踏み込んで企業と向き合い、支援する金融機関」だと定義すると、そのような金融機関は存在し得ます。中小企業の側で、そういう金融機関が欲しいと思えば、自らの意思で工夫してメインバンクを作ることさえできるかもしれません。それを目指しましょうと申しているのです。



プロパー貸付を行ってくれる金融機関

 「これまでの状況から一歩踏み込んで企業と向き合い、支援する金融機関」と定義するメインバンクのあり方の第1は、プロパー貸付を行ってくれる金融機関です。プロパー貸付とは、信用保証協会の保証が付けずに行われる融資のことです。金融機関は、信用保証協会の保証が得られると、貸倒の危険を(一定割合)回避することができます。万が一、中小企業が返済できなくなった場合には、保証協会が返済(代位弁済)してくれるからです。このため信用保証が得られる場合、金融機関は、中小企業についての審査を簡略化することができます(全ての金融機関がいつも簡略化しているとは言いませんが)。

 一方で信用保証を付けないプロパー融資の場合には、中小企業が返済しなかった場合の損害は、全て金融機関が負担しなければなりません。そうなっては金融機関も適正な利益が出せず、企業として成り立っていきませんから、融資審査時には保証付きの場合よりもしっかりと審査することになります。例えば経営者へのヒアリングや、決算書に不明な点があった場合の照会を、保証付きの場合よりも念入りに行います。改善すべき点を指摘して、それを実行するようにアドバイスすることさえ、あるかもしれません。このようにプロパー融資の場合には、信用保証付き融資の場合よりも一歩踏み込んだ付き合いをすることになります。 



本部審査部扱いの融資を行ってくれる金融機関

 メインバンクのあり方の第2は、本部審査部扱いの融資を行う金融機関です。金融機関が融資判断する場合、普通、3つのレベルがあります。初回申込みから一定金額までは支店長が融資判断します(支店の内部での判断)。その金額を超えると、支店の判断に加えて本部の「審査部」も判断に加わります。非常に金額が多くなる場合には役員の判断(決裁)も必要となります。融資の申込みをした中小企業からすると、支店決裁と審査部決裁とでは中小企業の「手間」が大きく異なります。審査部決裁の場合には支店決裁の場合よりも多くの資料を提出するよう求められるのが普通ですし、時には今後の取組みを明確に定める「経営計画書」の提出を求められる場合もあるでしょう。

 金融機関は、うまくいっている中小企業も、うまくいっていない中小企業も多数、知っています。「自分の取引先には是非ともうまくいって欲しい、儲かって欲しい」という願いをもとに、これまでに培ってきた経験・ノウハウから導き出したのが「一定金額以上の融資申込みの場合に作成してもらう経営計画書」なのです。にも関わらず「経営計画書の作成なんて、面倒臭い」と言って、それを求めない他の金融機関に申し込むのは「御社について真剣に考えてくれる、時には御社のことを思って厳しいアドバイスをしてくれる金融機関を得るチャンスをみすみす逃している」と言えるかもしれません。そういうチャンスを、是非、掴んでもらいたいと思います。本部審査部扱いの融資をしてくれる金融機関(メインバンク)を持つのです。 



メインバンクのメリット

 「積極的に企業を支援してくれる金融機関。赤字の時は捨て身で支援してくれる」という意味でメインバンクを捉えると、確かに、今やそんな金融機関は存在しないと言えるでしょう。しかし「一歩踏み込んで向き合ってくれる金融機関」は存在します。というか、そういう金融機関を中小企業が作っていくことができます。「信用保証付きでなくプロパー融資を検討してくれませんか」と頼んだり、こちらからの申込みに「融資残高が増えるので、今回は経営計画書を作成して欲しい」と要望してきた時に、しっかりと対応することによってメインバンクができるのです。  金融機関からの求めに誠実に対応し、しっかりとコミュニケーションすることで、信頼関係が生まれるでしょう。すると金融機関は「もう少し力を入れて経営改善に努めてみないか。それに応じるなら、金融機関としてもしっかり支援するから」と言ってくるかも知れません。こういう関係になれることが、メインバンクを持つメリットです。私の顧客企業にも、こういう提案を受けた会社がいくつもあります。是非、このような親密な、そして御社のメリットになる金融機関との関係を目指してみてください。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙1枚のボリュームなのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達できる企業になるための方法をしっかりと学んでみてください。



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プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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