「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第137回

コロナ特別長期保証の審査支援体制

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



日本政策金融公庫が事業性評価を行う「コロナ特別長期貸付」に引き続いて、信用保証協会による「コロナ特別長期保証」をご提案しているところです。コロナ特別長期保証は、コロナ特別長期貸付と同様、借入時点ではコロナ禍の影響などにより融資は難しいと判断されてしまう中小企業に、長期的な視野で、将来に実現するだろう事業性をベースに融資を行おうとするものです(それが「長期」という名称の由来でもあります)。


これまでの信用保証付き貸付では、審査は金融機関と信用保証協会が各々行なっていました。では、コロナ特別長期保証では、事業性評価を誰が行うか?筆者は、事業性評価による審査は金融機関が行い、信用保証協会はその妥当性確認により審査する形式を提案しています。すると「金融機関の中には事業性評価できないものがあるだろう。その場合は、どうするのだ?」という意見があると思います。今日はその点について、考えてみます。


行政・諸機関との連携・制度活用

金融機関の中には、人的資源が少ないことや、これまでノウハウを積み重ねるチャンスがなかった等の理由で、事業性評価の推進に困難を感じているところがあると考えられます。筆者が提案する仕組みでは、信用保証協会が妥当性確認をする中で指導・フォローすることを期待していますが、白紙に近い状況だと、それでも「コロナ特別長期保証に取り組むことは難しい」と感じる金融機関が出てこないとも限りません。それは、当該金融機関の顧客である中小企業が「コロナ特別長期保証」を利用できないことを意味し、由々しき事態です。


このため行政には、現在ある支援制度を利用して金融機関の事業性評価をサポートするよう提案します。中小企業庁は「認定支援機関による経営改善計画策定支援事業」を行なっており、活用できるでしょう。当該制度は、事業計画書を策定し、モニタリングしてもらうことで実効性のある取組みを行おうとする企業に、専門家報酬の一部が支援される制度です。適切に作成された事業計画書は、金融機関にとって、事業性評価に取り組む上での効果的支援となるでしょう。また同様の制度を商工会議所などの機関と連携する形で用意している地方公共団体が少なくありません。これらも利用できるようにすると共に、事業性評価による融資が可能な状況かを検討したり、可能な場合、中小企業として必要な対応を教示するなど、きめ細かい支援にも取り組むよう期待しています。


公庫による協調審査制度の創設(中小企業事業)

企業から情報提供があったとしても、特に事業規模や借入額等が比較的大きな企業について、「事業性評価による審査そのものに不安がある」と感じる金融機関があるかもしれません。地方の地域金融機関の中には、地域を支えてきた企業がコロナ禍で大きなダメージを受けてしまい、事業性評価による融資が必要になったにもかかわらず、過去にこれほど大きな事業性評価案件の審査経験がなかったため、対応しきれない状況もあり得るのではないかと考えられます。この障害に対処できなければ、金融機関にとっても企業にとっても、そして地域全体にとっても、マイナスの影響を及ぼすと考えられます。


この事態に対処するため、日本政策金融公庫(中小企業事業)との協調審査制度(コロナ特別代理貸)を提案します。これは、地域金融機関が中・中堅企業から事業性評価を前提とした融資申込みを受けた場合に、審査が困難と考えられる場合は、金融機関の判断で公庫(中小企業事業)に協調を申し込み、申込額の一定割合について公庫資金の代理貸とする一方で、審査について公庫と協調できる制度です。その、民間金融機関融資分を「コロナ特別長期保証」の対象とします。公庫が事業性評価による審査を行い、地域金融機関は面談などで同席、審査プロセスや結果を共有することで、適切な事業性評価を行うと共に、ノウハウを身に付けることを目指します。現在、日本公庫(中小企業事業)は、事業性評価の実績を最も積んできた機関の一つで、そのノウハウは膨大です。民業補完を目指す日本公庫には、このような民業支援もメニューに入れてもらいたいと考えています。


金融機関再編に新たなパラダイムを

現在、地方の民間金融機関、特に銀行の統廃合による再編成が検討されているようです。筆者としては、以前にも分析した通り、それは事業性評価の推進による中小企業支援にプラスの影響もマイナスの影響も及ぼし得るので、総論として賛成・反対を論じたいとは思いません。それよりも、事業性評価の推進による中小企業支援にプラスの影響が出る制度を提案します。それが、今回の「コロナ特別長期保証」です。これは、「新たな信用保証制度の提案」という衣を纏いながら、実は中小企業向け金融システムの再編を提案するものです。信用保証協会には「事業性評価の妥当性を審査する」という役割、日本公庫には「事業性評価ノウハウ伝授の伝道師になる」という役割を新たに与え、その軸のもとに地域金融機関が自らの役割を再定義する金融システムを提案します。


<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


なお、冒頭の写真は写真ACから craftbeermania さんご提供によるものです。craftbeermania さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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