「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第227回

企業立て直しの定性的目標(顧客満足)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




コロナ禍が予想を超えて引き続き、ロシア・ウクライナ戦争も勃発して世界経済が混乱していく中で、少なからぬ中小企業にとって「資金調達」が生き残りの鍵になります。そのような企業にとって今は、小手先の策では資金調達できません。専門家に頼んでちょっとした資料を作成してもらい提出すれば可能になるといった状況ではないのです。企業自身が立ち直りをかけた事業計画書を作成するのが出発点となります。


「しかし今まで計画は立てずとも、立ち直りに向けた努力はしていた。立てたからといって状況が変わる訳ではなかろう。」その通りで、今までとは違ったアプローチが必要になると考えられます。前々回、今までの顧客に向けた貢献(それは多くの場合、競合がひしめくレッドオーシャン)ではなく、欲しい商品やサービスがなくて困っている顧客に向けた貢献(多くの場合、ブルーオーシャン)を目指す方向性について考えました。今回は、その顧客をどのように満足させるかを考えましょう。



満たされていない需要を満たそうとする方向性

「欲しい商品やサービスがなくて困っている者を探して貢献する策は、とても良い。そんな悩みを聞いたことがあり、自社で対応できそうなものがある。早速手掛けることにしよう。これでV字回復だ。」もし、そのような案があるとすれば、とても喜ばしいことです。但し、そのアイデアをもとにV字回復の計画書を作成しても、少なからぬ事例で金融機関から認めてもらえません。金融機関は「実現性」を気にしているからです。


今まで満たされていない需要を満たす、という方向性の事業計画書を作成して(あるいはその意向を口頭で説明して)融資を申し込む中小企業は、山ほどあります。皆さんが申し込む金融機関も、数多くの計画書を見てきたことでしょう。それらの企業が全て(概ね)計画書通りの成果をあげることができたか?実際はその逆で、あげられなかった企業の方が多い状況です。金融機関からすると、事業計画の実現性が気になるのです。


このため「これまでとは違ったアプローチでV字回復する」計画書について、その部分だけを見て評価することはありません。実現に向けた取組が記載されているか、それで実効があがりそうかをチェックしています。



企業視点から顧客視点(満足)への転換

これは、視点を変えることを意味しています。前回は「顧客に貢献する」との企業視点で考えるようお勧めしましたが、今回は「私(顧客)が満足できる」という顧客視点で考えるようお勧めしています。今まで何度トライしても上手くいかなかった状況を打破するには、従前業務を見直す発想の転換が大切で、それがなければ何も始まりません。しかし、それで終わりではありません。自分の着想を顧客が受け入れてくれるか、保証の限りでないからです。そこで思考を止めてしまうと、多くの場合、望んだ成果を得ることはできません。


今まで特定の商品やサービスが存在しなかったので困っていた顧客(現在はまだ「潜在顧客」というべきでしょう)は、こちらが提案した商品やサービスで満足できるか?初めての提案で満足できることは稀でしょう(画期的製品の登場を紹介するテレビ番組等では、いきなり熱狂的に受け入れられたと表現することがありますが、実際は徐々に受け入れられる方が多いのです)。受け入れてもらうためには微調整が必要です。多くの場合、こちらから提案し、相手の反応を確かめてみて、より良好な結果が出るソリューションを探ります。


この試行錯誤を行う対象は、1つだけではありません。製品でいえば、機能だけでなく、価格、デザイン、購買方法(信用供与)、耐久性、保証、品質、取扱店舗(販売チャネル・インターネットサイト)など様々なポイントがあります。優先順位が高いと思われた側面ですり合わせができると、別側面での調整が必要だと分かったりもします。このようにして顧客と調整を重ねてやっと満足されるようになり、成果につながっていくのです。


逆にいうと、この擦り合わせを行うアクションプランがない計画は、実現性が高いとは言えません。これが、魅力的に見える改革案を盛り込んだ事業計画であっても金融機関が時に受け入れない理由の一つとなっています。


「なるほど、顧客満足を目指す大切さが分かった。それを疎かにしたら成果は出ず、金融機関の支援は引き出せないのだな。しかし顧客視点に立つのは難しい。どうすれば良いのか、誰かと相談したい」と思われるなら、地域の「よろず支援拠点」あるいは取引金融機関などにご相談下さい。StrateCutionsでもご相談に乗っています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から bBear さんご提供によるものです。bBear さん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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