「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第8回

事業計画を作成して資金調達に成功した例

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
前回まで、資金調達が難しかった中小企業でも、経営改善に前向きであることを事業計画書などで表現することにより、資金調達できるようになる可能性があることについてご説明しました。金融機関の側に「この企業は『金融と経営支援の一体的な推進』ができる先だと分かってもらうことがポイントです。今回は筆者が支援した企業の例から、それが現実であることをご説明します(以下、企業に関する記述については特定できないような表現とさせて頂きます。)


企業概要

その企業は業歴30年の家庭用雑貨品卸売業者、メインに取り扱っているのは当社で開発した台所用品です。製造は外部に委託し、当社は卸売販売を行っています。当該品は約25年前に開発し、最盛期には年あたり一万個以上の売上がありましたが、現在の売上は数百個にとどまっています。

最初の面談で社長さんは、現状を打破するために新商品を投入したいので、そのための資金を調達したいと要望されました。新商品は、これまで販売していた商品に関連するもので、既に試作品の製造は着手しておられました。製造上の問題も特段にはなく、予定通り進捗しているそうです。新商品の実現に問題はなさそうでした。


資金調達への不安

しかし社長さんは、資金調達に大きな不安を持っていました。決算数字が、芳しくなかったのです。売上の低迷から損益分岐点を割り込むようになり、前々期まで4期連続赤字でした。前期は黒字でしたが役員報酬を返上してのことで、5期連続実質赤字です。近年の赤字、及びこれまでの長い業歴での赤字が累積して、資本金の約10倍にも及ぶ債務超過に陥っていました。これでは社長でなくても資金調達に不安を抱かざるを得ません。

当社は友人から借入を含めた業務立て直しを依頼された先です。最初、詳細を知らず支援を約束しましたが、決算書をお預かりして拝見した時にはお断りしようかと考え込むほどの状況でした。しかし、初回にお会いした時の社長のお人柄、誠実ながら熱意をもって事業に取り組んでいるお姿を拝見して、ご支援を決意しました。美辞麗句を並べて金融機関からお金を引っ張り出すようなご支援ではなく、新商品投入プロジェクトが成功するように戦略や実行のお手伝いをし、それでもって借入も可能になるようなご支援をしたいと申し上げました。それで、ご支援がスタートしたのです。


事業改善の必要性

新製品の開発は順調といえるものでしたが、これを販売していく当社の対応は順調とはいえない状況でした。新商品はこれまでの商品とは全く異なるカテゴリに属するもので、ビジネスモデルもマーケティングも全く変わってくることが予想されました。社長さんは、そのことに気が付いてはおられましたが、「大丈夫。その場その場で対応していけば、なんとかなる」とお考えのようでした。

それで最初に取り組んだのが企業分析です。零細企業なので目を見張るような営業力やノウハウ等がある訳ではありませんが、これまで約30年誠実に事業を進めてくる間に培ってきた熱烈な顧客や人的ネットワークがありました。何より、誠実かつバリタリティある社長のお人柄が、当社の財産です。

一方で、新商品を強力に販売していけるビジネスモデル構築や営業方法の開発は、当時は全く手が付けられていませんでした。無借金ならまだしも、借入しながらの展開となると、リスクが大きすぎます。何度も何度も話し合いを重ね、新商品に合ったビジネスモデルの構築や営業方法の開発にも本腰を入れるよう説得しました。社長は、結局は提案を受け入れ、新製品展開に合わせた経営改善に取り組むこととされました。


事業計画書

その話し合い結果をまとめたのが「事業計画書」です。これは、当社にとって今後の事業運営のバイブルになるとともに、金融機関に向けては宣誓書となります。この事業計画書をもって借入申込する時は「万が一、借入できなかったらどうしよう」と不安な気持ちでしたが、結果的には大きな波乱もなく借入することができました。採択された理由は「これまで苦しい時期にも誠実に返済してきたことと、新たな取組みに挑戦しているから」だったそうです。


教訓1:事業計画書の力

このケースから2つの教訓が得られると感じています。第1は、これまでの金融常識では資金調達が難しい中小企業でも「経営改善に真剣に取り組んでいる。申込資金は、その取組みを成功させるための資金である」ことを事業計画書としてまとめ、取組内容が適切と判断されれば、借入できる可能性があるということです。


教訓2:経営改善のタイミング

第2は、これまで経営改善に取り組まなくてはと思いつつ着手できなかった、完遂できなかった企業にとっては、資金調達が自己改革する絶好のタイミングになるということです。特に今回の企業のようにコンサルタントの支援を受けると、実行に向かって強力に促されますし、ご自分のモチベーションも高まります。


以上のように、これまで資金調達が難しかった中小企業でも、経営改善に前向きであることを事業計画書などで表現することにより、資金調達できる可能性が高まります。それは単に借入のためというよりも、貴社を持続可能性ある企業にするためにも重要です。そういうチャンスを、ぜひ活かしていただけたらと切に願っています。
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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