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第12回

金融機関の特性に対応した行動を取る(コミュニケーション編)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
中小企業金融支援は今、金融庁のリードによって大きく変化しつつあります。一方で金融機関は、それによって判断基準を全面的に変える訳ではありません。担保や保証をベースにした貸出から経営支援と一体化した貸出にシフトするにあたっても、以前の判断基準は概ね生き残ります。

金融機関は、預金(あえて言えば借入金)を原資に、企業に貸出を行っています。それゆえ慎重にならざるを得ないのです。このため金融機関から借り入れたいと考えるなら、慎重な相手が持っている特性に応じたアプローチをする必要があります。その方法としてこれまで「日頃の行動習慣」及び「決算書・試算表をベースにした説明」についてご説明しました。今回は金融機関とのコミュニケーションについて、お話ししたいと思います。


取引先企業に関する情報について

これまでのご説明を読んでいただいた皆さんは、うすうす、「金融機関は、取引先企業について、あまり情報を持っていない」ことに気が付かれたのではないかと思います。担保や保証をベースにした融資がメインだったことも、理由の一つです(担保や保証に関する情報に重きを置き、企業に対する関心が薄れます)。一方で、それが欲しくても企業から提供してもらえなかったという理由もあります(だからこそ「決算書・試算表をベースにした説明をしましょう」とご提案しました)。第3として、金融機関は忙しいという理由を加えたいと思います。


忙しい金融機関

金融機関はどれくらい忙しいのでしょうか?中小企業への貸出をメインとしている融資担当者でいうと、担当企業を100~400程度、抱えていると言います。勤務日には必ず1社訪問するとしても、担当できるのは300社弱ですね。訪問のために準備をし、もし借入の打診があったら対応しなければなりません。実際に申し込みがあったら、企業の実情を調査し、申込内容を踏まえたりん議書(上司の決裁を取るため、そしてその記録のために作成する書面)を作成することになります。これではいくら時間があっても足りません。

こういう担当者が作ったりん議書を、支店内では貸付担当役席(特殊な表現ですが、課長だと思って頂いて構いません)と支店長がチェックをし、貸出するか否かを判断します(高額案件は本部の審査部でもチェックを受けます)。一人の担当役席は3人から6人、あるいはそれ以上の担当者の案件をチェックしています。支店長は、貸付以外の仕事(お客様や地域とのコミュニケーション、支店内ガバナンス)が山ほどある中で融資審査もこなしています。金融機関は、忙しい人達の集まりなので、企業に関する情報を集めにくい状況にあると言えるでしょう。


それは結局、企業の不利に

こういう忙しい人達が、限られた時間の中で貸出の可否を判断しています。担当者が作成したりん議書について、役席や支店長があるポイントについて「ここをもう少し調べてもらわなければ、貸出の判断はできないな」と思ったとしましょう。担当者はすぐに電話するかもしれませんが、社長に繋がらなければそれっきりになってしまうかもしれません。融資してもらうのが遅くなるということです。損をしてしまうのは、中小企業の方なのです。


積極的なコミュニケーション

では、どうすれば良いのか。企業の側から積極的にコミュニケーションする方法があります。例えば、毎月の一定時期(前月末の試算表ができ、それをもとに今月の対策を考え終わった時など)に担当者に来訪してもらうことができるでしょう。「それで、何を話せば良いのか?」前回・前々回でお話しした、会社の現状や今後の方針などを決算書や試算表を用いて説明することができます。説明後に「何がご不明の点はありますか?調べて次回にご説明します」と言えば、次回にも来訪してもらうきっかけになります。そうやって、コミュニケーションを深めるのです。

「そうやって情報をさらけ出してしまうと、我が社のすみずみまで金融機関が知ってしまい、逆に不利になるのではないか?」そう思われるかもしれませんね。確かに、数年前までだったら、その懸念は否定しにくい面がありました。金融庁が金融機関に「貸し倒れしそうな気配がある企業に貸し出してはいけない」と言わんばかりの姿勢で金融検査をしていたことも、理由の一つといえるかもしれません。そういう状況だったこともあり、当時の資金調達対策は、自社の「欠点を隠す」ことがメインだったのです。


情報開示するメリット

しかし最近では、状況が異なっています。金融庁は金融機関に「支援をしながら融資する」よう要請しています。欠点を見つけたら、それでもって貸出を断るのではなく、貸出できるように支援するのです。

企業にとっても、金融機関にとっても、企業が稼ぐ体質を身につけて元気になることが、望ましい状況です。欠点を隠していては、そうなることは難しいでしょう。欠点も、そして長所もしっかりと認識した上で、対策を練ることが大切です。

とするならば、企業の欠点を金融機関に知られることは、あまり問題ではないかもしれません。金融機関に「貴社の欠点は○○ですね」と言われたら、「そうなんです。それを改善するために努力していますが、金融機関としても何か支援して頂けませんか?」と頼むことができるかもしれません。共通認識となった課題に真剣に取り組むことで、金融機関の信頼を勝ち得ることができるかもしれません。

このような展開になれるのは、企業と金融機関が密接な、良好なコミュニケーションをとっていればこそ、です。金融機関とのコミュニケーションは、今までももちろん重要でしたが、これからは更に大切なポイントなると考えられます。是非、前向きに検討してみてください。
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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