「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第64回

「不況業種」と言われたら

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 とても残念なことですが、中小企業の側では業況等に特段の変化(特に悪化)がないのに、時に金融機関から「いつものような支援はできません」と言われることがあります。歯をくいしばるような努力を尽くしてやっと前期並みの決算を叩き出すことができ、「ああ、これで今年の夏の資金調達も安心だな」と思った矢先、去年まで支援してくれていた金融機関から上のような言葉を聞くと、中小企業としては、本当に辛く、苦しく感じられます。



必ず理由を聞く

 このような場合、多くの社長は「そうか」と肩を落として、もしくは「なんだ!」と気持ちが高ぶって、そのまま金融機関を後にしているようです。が、ここはしっかりと気持ちを落ち着けて「何が原因なのですか?」と聞いてみてください。もちろん、業績が悪化して、例えば赤字を出してしまったという場合にも、理由を聞くことは大切です。それを知ることは、その金融機関との今後の付き合いを考える上で、そしてこの夏の資金調達をするにあたって他金融機関に申し込むに当たって、とても参考になるからです。


 金融機関によっては「当金融機関所定の審査によって、今回はご支援を見送らせて頂きました」と答える場合もあると思います。でも、そこで諦めることなく「今後の資金調達を行うに当たっての参考にしたいので、是非教えてください」と依頼してください。これまで取引のない、初めての金融機関ならまだしも、これまで何度か融資してくれた実績のある金融機関ならば「では」と言って教えてくれると思います。「金融庁のご指導で、融資を断る場合には理由はお尋ねできることになっていたと聞いていますが」とまで言わなければならないようであるなら、今後の付き合い方を考えた方が良いかもしれません(もちろん例外はあります。これまで親身に相談に乗ってくれていた担当者が転勤して新たな担当者に変わった場合などは、少し長い目でみた方が良いかもしれません)。



「不況業種だから」という理由の場合

 その中で厄介な答えは「あなたの企業が属する業種が、不況業種だから」という答えの場合です。この場合、「今回、いつものような支援ができない」という判断が下されたのは、あなたの企業に問題があるからというよりも、その業種に問題があるからです。


 「そんな、不況業種だからと言って、融資を制限するようなことがあって良いのか?」と憤慨される社長さんもおられます。しかし、冷静に考えてみると、それはビジネスとしてよくある発想法であることがわかります。もし、あなたの企業に掛売りを依頼してきた企業があったとしましょう。近年発展を遂げている業種の企業ならば前向きに検討しようとの気持ちになれると思いますが、ここのところ不況な業種なら警戒するのではないかと思います。金融機関も同じ発想法で、判断しているのです。



不況業種でも資金調達できる企業

 不況業種を理由に金融機関が支援を渋った場合に、どうすれば良いか?「自分が原因ではないので、何も打つ手はないではないか?」そう思う必要はありません。「不況業種でも資金調達できる企業がいたとすれば、それはどんな企業か」と考えてみることに、答えが隠されています。


 第1に挙げられるのは「業績の良い、返済能力のある企業」です(多くの金融機関は、このような企業を債務者格付けで「正常先」に分類しています)。逆に言えば「不況業種だから」という理由で支援を渋られるのは「正常先ではない」からかもしれません。「我が社の業績は、そんなに悪くないのに」とおっしゃる社長さん。例えば、実体上は利益が出ているにも関わらず、節税対策と称して利益を圧縮して、時には赤字を出したりはしないでしょうか?


 第2は、「確かに自分が属する業種は景気が悪いが、自社はその影響を受けないように工夫しており、成果を出している」ことを、金融機関にしっかり理解してもらっている企業です。例えば「我が地域の金属加工業は全体として需要が低迷しているが、我が社はオリジナル製品を発表し、それが浸透しつつある。今回の運転資金は『オリジナル製品の販促』という物品販売業としての取り組みに用いたい」ことを商品サンプルや最近の実績資料等を交えて説明することで、金融機関の納得を引き出せるかもしれません。


 第3は「現実に立ち向かうべく、真剣に取り組んでいるな」と金融機関に思ってもらえる取り組みをしている企業です。例えば、長年、地元商店街で頑張ってきた精肉店について考えてみましょう。現経営者は、このまま頑張りを続けていくつもりだったが、承継予定者は「精肉店での事業継続は難しい。この店舗を受け継ぐなら飲食店に切り替えたい」と考えたとしましょう。現経営者と承継予定者の意見が反目しあったままでは、金融機関としては支援したくても不可能です。しかし、現経営者が「そうだな。事業承継の場面で転業も必要かもしれない。末長く事業を続けられる店に変わることも選択肢に入れて、専門家や金融機関の助けを得ながら検討しよう」と考えて支援を求めるなら、応じたいと名乗り出る金融機関があるかもしれません。



複数の金融機関と取引する

 「金融機関との取引は一つの金融機関に限らず、複数と取引するのが良い」という話を、よく聞きます。この方法は「不況業種だから、今は支援できない」と言われた時にも有効です。「わが社は小さな会社で、そんなに大きな金額は必要ないのだが。」小さな金額でも、毎年1度かそれ以上の借入を行う必要がある企業なら、是非とも取り組んで下さい。資金が必要な時に調達できないと、時には会社の命運を左右するような影響が出ます。あなたの会社を守るため、いざという時に代わりに話を聞いてくれる金融機関をキープしておくことは、とても大切なことです。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙1枚のボリュームなのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達できる企業になるための方法をしっかりと学んでみてください。



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プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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