「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第85回

「続ける!」意思を表明しないと相手にされない!?

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 前職で倒産案件を1万8000以上審査してきた者として「金融機関の心配をしっかり受け止めて欲しい」と思うことがあります。その典型例が事業承継問題です。「そんな、経営者の最もナーバスな問題に口を挟むのか?」はい、だから多くの金融機関は、非常に心配していますが口を出しません。その代わり「いくら心配しても伝わらない。もう諦めるしかない」と思ってしまう場合があります。それ以上の支援、つまり融資は困難と判断してしまうのです。



中小企業と金融機関のギャップ

 中小企業、特に経営者には、サラリーマンと違って定年がありません。サラリーマンは60歳、延長して65歳が定年で、その年がくれば否応無しに会社を辞め、次の仕事を探すか隠居生活に入るかを決めなければなりません。一方で経営者は、「ここで引退しよう」と考えるまで働き続けることができます。何人もの経営者の皆さんとお付き合いしていると、多くの経営者は「まだまだ元気だから」とか「後継者が育っていないので」もしくは「後継者がいないので」などの理由で仕事を続けています。仕事を続けられるのは喜ばしいことですが、一方で社長の怪我や病気などの理由で事業が立ち行かなくなるリスクが高まることを意味しています。


 「自分には、そんなことは起きない。」そう仰った社長さんにも同等のリスクがあるケースを、筆者は何千と見てきました。金融機関の担当者も、私ほどの件数ではなくても、多く見てきたことでしょう。そのような社長さんが、今までと全く同じように借入を起こそうとする場合があります。経常運転資金のこともあれば、資金繰り資金のこともあります。時には拡大運転資金や、設備投資資金の申し込みの場合もあります。一方で金融機関としては、そのような企業からの借入申込みに抵抗感を感じるようになり、その感じは年を追うごとに強くなります。


 「なぜだ、私は元気で働いているのに。」おっしゃる通りです。しかし金融機関は、そう仰っていた社長さんがいつの間にか「自分はもう仕事をやめることにした。継ぐ人もいないので会社そのものをやめようと思っている。借入金全てを返済できるわけではないが、こちらとしても無い袖は振れない」と言うようになる場面を再三、見てきました。日本政策金融公庫からは「そうなる可能性のある会社がかなりの割合で存在する」との統計も出ています。平穏な気持ちでいられるはずがありません。



「リスク・コントロール」という考え方

 「そうは言っても事業承継は自分だけで行えるものではない。相手がいる。想定外のことも多々起きる。荷が重い課題を融資条件にするのは、金融機関の横暴ではないか」そのお気持ち、分かります。一方で、「実は金融機関の期待は、事業承継の完遂ではない可能性がある」と言っておきましょう。


 「リスク」は完全に避けることはできません。売上を例に考えると、普段通りに仕事をしても売上が良い時もあれば悪い時もあります。金融機関としては、コンスタントに売上をあげて欲しいと思っていますが、そうならない場合もあることは重々理解しています。


 金融機関が関心を持っているのは「リスクがコントロールされているかどうか」です。売上の例では、売上が毎日集計され、芳しくなければ察知して対応が打てる企業はリスクがコントロールされています。一方、売上金額は年に一回、税理士が集計して初めて分かる企業はコントロールされていません。十分な利益がある企業なら後者でも融資が受けられるかもしれませんが、時に赤字になる企業が後者のような状況だと、消極的にならざるを得ないのです。 



例えば「事業承継計画」を立ててみる

 事業承継の場合も同じです。事業承継が成功するかどうかは結果を見なければなりませんが、それでは社長の年齢が一定以上の企業は全て資金調達が困難になってしまいます。しかし実際にはそうはならないのは、金融機関は、事業承継というリスクが適切にコントロールされているかを気にしているからです。


 では、事業承継というリスクをコントロールすべく取り組んでいることをどのようにして金融機関に伝えることができるのでしょうか。「事業承継計画」を立てる方法があります。「今、後継候補者と一緒に事業承継計画を作成しているんだよ」と伝えることで、金融機関も「この会社は生き続ける意志を強く持っているのだな」と納得することができるでしょう。融資の申込みに前向きに検討することができるようになります。


 「でも、手始めに何をすれば良いのか分からない」分かりやすいセミナーを、弁護士、事業承継コンサルタント、そして筆者の3名合同で実施します(8/17)。概要は以下のURLでご確認ください。 

https://www.innovations-i.com/seminar/schedule/2731.html





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本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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