「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第178回

会社と経営者の関係を見直す

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



コロナ禍にあって資金調達して持続化を可能にした企業のうち、少なからぬ企業が「借入金が増えすぎた」という弊害に苦しんでいます。特に、事業承継を考えなければならない企業は、この問題を無視できません。「私はまだ50歳代前半なので事業承継はまだ大丈夫だろう」と考えていた社長も、「借入が増えたことで、早めに取り組んだ方が良いのだろうか」と考えたほどです。


中小企業が事業承継を円滑化するポイントの一つに、代表者が債務保証しなくても済む会社にしておくことがあります。前回、「経営者保証ガイドライン」の概要をお伝えしました。今回は第1のポイントである「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」について考えます。



法人と経営者との関係が区分・分離されるとは

企業側から「代表者保証を外して欲しい」と依頼された場合に金融機関は「経営者保証ガイドライン」に照らし合わせて検討します。第1は「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」です。実は、法人と経営者の関係には様々あります。一部上場会社は、経営者と区分・分離されているでしょう。会社には多くの役員がおり取締役あるいは監査役として、経営者が会社を私物化しないよう牽制しているからです。一方で、法人といいながら経営者が一人だけで従業員はいない状況では、会社と経営者は一心同体です。経営者が保証人にならず会社が借入をするとは、債務者がいないも同然なので、許されることはありません。そして中小企業は、今あげた両極端の中間のどこかに位置することとなります。


例えば従業員が50人、取締役も経営者を除いて複数人、監査役もいる企業があったとします。このような企業が「法人と経営者が区分・分離されている」といえるか?実は微妙で、一概に判断できません。経営者が決まった給料しか受け取らず、どうしても入り用な時には会社に借用証書を書いてお金を借り入れ、約束を守って返済しており、役員も家族以外が就任しているなら法人と経営者は区分・分離しているといえるかもしれません(他にも条件があるので、ここでは可能性としています)。


一方で、会社の口座から引き落とされるクレジットカードで私物を買ったり家族旅行に出かけたりする、金庫のお金をいつの間にか持ち出して経理担当者から「お金はどうしましたか」と聞かれると「借りた」と言う、役員は家族だけ、などの状況では、法人と経営者が区分・分離しているとは言えないでしょう。



経営者が会社を私物化しているケース

経営者が会社を私物化していると判断される典型例は、会社から経営者へ多額の貸付金がある場合です。「社長個人の住宅ローンでは希望する物件が買えないので、会社からも借りた」という状況では、金融機関にとっては、会社への貸付金が社長個人の用途に使われたのと実質的に同じなので、経営者保証を免除することはできません。


他にも、会社が経営者に社会通念を超える役員報酬や賞与、配当金等を払っている場合(それがなければ会社に自己資本が積み上がるはずなのに流出している場合)や、会社に全く貢献していない家族・親戚を役員にして多額の報酬を払っている場合も、会社は私物化されていると判断されるでしょう。



会社が経営者に頼り切っているケース

「なるほど、経営者が会社を私物化してはならないのだな。その逆は大丈夫なのだろうか?」そうではありません。会社が儲かっていないので足りなくなったキャッシュの補充を経営者の私有財産に頼っている場合はもちろん、会社の本社や店舗、工場などが経営者個人の所有土地・建物にありながら一般的な家賃を払っていない(家賃を払うと赤字になってしまう)場合などには、会社は経営者に頼り切っており、区分・分離がなされていないと判断されるでしょう。


一方で、会社が経営者個人の土地・建物に立地している場合は少なくないでしょう。このような場合、妥当な家賃を払っているなら、区分・分離がなされていると判断される可能性があります。また、法人が金融機関から借り入れる時に経営者の土地・建物が担保提供されている場合も同様です。会社の借入が完済されない限り、たとえ所有者の経営者であっても担保として提供された土地・建物を処分等することはできないからです。


以上、法人と経営者との関係が明確に区分・分離されていると認められるケース、認められないケースを考えました。基本は経営者が会社を私物化しておらす、経営者から独立していることが問われます。但し、状況から単純に決められる訳ではありません。本当は会社自身が本社・店舗・工場等を所有するのが望ましいのですが、家賃の支払いや担保提供などの現実的側面が斟酌される場合もあります。現在の状況から、どのように改善していけば代表者保証を免除してもらえるのか、金融機関に判断してもらうのが一番です。一度、金融機関担当者に相談してみるのはいかがでしょうか。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は 写真AC から緋色らいおんさんご提供によるものです。緋色らいおんさん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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