「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第255回

「平時に戻った」という意味

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




最近、中小企業に向けた金融環境について「平時に戻った」という言い方を多く耳にするようになりました。今回は、この点について考えてみます。



「特異時」だったコロナ時

「平時に戻った」という言い方は、「コロナ特別貸出(コロナ対策として特別に創設された制度を利用した、政府金融機関による直接貸出)あるいはコロナ特別保証(同目的の信用保証協会が行う信用保証を利用した、金融機関による貸出)の据置期間が満了したことにより返済が始まる一方で、返済できる資金がないので借換等により再度の据置期間を設定してもらおうと試みる企業が少なくないが、それに応じてもらえない例がある」という文脈の中で耳にする確率が高いと感じています。


2020年初から始まった新型コロナウイルス感染症の蔓延により行動や事業活動の制限あるいは自粛等により影響を受けてしまった企業の資金繰り難を原因とする倒産を避けるため、政府はコロナ特別貸出制度やコロナ特別保証制度を創設しました。当初は「制度ができても審査は厳しいだろう、そう簡単には資金調達できないだろう」と感じていたかも知れない企業も、政府系金融機関や信用保証協会が倒産回避を念頭に置いた審査を行ったことを受けて「今までになく容易に資金調達できた」と感じたようです。その感覚が瞬く間に広がると共に、利息や信用保証料を一定期間、国や地方自治体等が支援すると共に、審査を民間金融機関に任せる運用がなされたゼロゼロ融資が広がったため、中小企業向け貸出残高が40兆円上積みされるという未曽有の現象が生じました。この期間はまさに「特異時」だったのです。


コロナ禍が当初に予想されたように一過性に終わり、月商3か月~半年程度の資金調達で乗り切れていれば大きな問題は生じなかったと考えられますが、実際は3年にわたって影響を及ぼし続けました。このため今に至るまで売上・利益を取り戻せず資金繰りを正常化できない企業があります。この状態で据置期間が経過しても返済できないので、多くの企業経営者が「借換により据置期間をもう一度設定してもらえたら切り抜けられる。あの頃と同様の審査で応じてもらえるだろう」と考えたのだと思われます。実際、信用保証には、コロナ特別保証の流れを汲むと考えられる「コロナ借換保証」が創設されました。日本政策金融公庫の貸付でも同様の運用がなされています。これら借換で息を吹き返した企業も多いのですが、少なからぬ企業が応じてもらえなかったのです。「その差はなぜか?」と問うた答えが「もう、コロナ禍対策の特別措置が終わったからだ」でしょう。これを「平時に戻った」と表現したのだと思われます。



「特異対応」の目的

「平時に戻った」との表現の意味合いは漠然としています。コロナ特別貸出・コロナ特別保証の借換ができなかった企業が「では、どうすれば良いのか?」を考える場合は、もう少し踏み込んで考える必要があります。2020年からの「特異対応」の目的を考えることがヒントになるでしょう。


これが「全ての中小企業の倒産をゼロに抑える」ではないことは理解できるでしょう。「これほど大規模な経済インシデントがなければ倒産するはずもない『正常な企業』がショック的に倒産するのを防止する」趣旨と思われます。ただ制度を「コロナ禍以前からゾンビ化していた企業を除く」設計にする訳にはいかないので「ほぼ全ての企業が、コロナ禍でショック死しないような金融支援」が設けられたのだと考えられます。


以上から、現在の意味合いが理解できると思います。2020年からのコロナ特別貸付・コロナ特別保証でたまたまゾンビ企業に融資したとしても、今後もその支援を積極的に継続していくことはないでしょう。その流れから、もともとは正常企業であってもコロナ禍により財務体質が悪化、今でも業績を戻せず将来について不透明という企業(ゾンビ化してしまった企業)についても慎重になると思われます。それが「平時に戻った」の意味です。



平時に戻った場合に行うべきこと

このため企業は「私は持続可能な企業だ」と主張・証明することが必要です。特に、財務数字・指標をみると連続赤字、借入過多、債務超過である企業はしっかりと主張・証明しなければなりません。実は2022年にスタートした「コロナ借換保証」で、その条件は明示されていました。「経営行動計画書」です。数字の上では「ゾンビ企業ではないか」と疑われてしまう企業は、「実は違う!経営改善を計画し、邁進している!」と納得が得られるように説明することが、支援されるポイントなのです。




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本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は 写真AC からtetoraSNさんご提供によるものです。tetoraSNさん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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