「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第87回

「お化け」に怯えない!

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


 資金調達において事業承継の取組がポイントになると考えられる場合があり、それをはっきりと打ち出すため事業承継計画の策定が有効なことと、事業承継に本当に役立つ計画を作って、事業承継と資金調達の両者に役立ててくださいとお伝えしたところです。



ある社長の心配

 「言いたいことは分かった。しかし、こちらにもおおっぴらに事業承継に取り組んでいると公言できない事情がある。当社が事業承継に取り組んでいることを知って、取引先や金融機関が『あの会社にはリスクがある』と警戒するかもしれない。そういう危険は冒せない。」そのように仰る社長さんが、おられます。時には、事業承継をビジネスとしながら、そのように社長さんたちにアドバイスしている専門家も見かけます。


 取引先が、当社が事業承継に取り組んでいることを知って『あの会社にはリスクがある』と考えて警戒する可能性は確かにあるようです。その取引先は以前に、事業承継に取り組み中の企業と取引を継続したけれど、新社長になって取引を打ち切られ大きな損失を被った経験があるのかもしれません。自社の取引先に、このような考えを持つ会社が存在する可能性があるなら、細心の注意を払い慎重に言動する必要がありそうです。


 一方、本コラムは資金調達がテーマとしています。金融機関に限って言えば「お化けに怯えないで下さい」と強くお勧めします。あなたの会社が事業承継の取組を進めていることで『あの会社にはリスクがある』と考える金融機関はありません。今も昔も、です。



筆者の体験

 筆者は以前に、地方のとある信用保証協会に出向して保証審査(金融機関にとっての融資審査)を担当していたことがあります。ある老舗の酒類小売業(街の酒店)から半期一度の運転資金申し込みがあったので、これまでと同様の業況をキープしており特段に問題がないと判断して「保証可能」の旨、りん議書を作成したところ、上司から「担当者が申し送り事項を見落としてはいけないな」と指摘されました。筆者が出向する前に「経営者が80歳以上と高齢だが後継者は不在のため、事業承継の取組を勧めた」との記載があったのに、そのフォローをしていなかったというのです。


 実際はヒアリングをしており「特段に進めていない」との返事があったので、コメントは記載しませんでした。その旨を伝えると、「そのような企業に『事業承継を検討すべき頃合いと考える』と金融機関が根気強く伝えなければ、他に誰がアドバイスする?自分の役割を果たさなくてどうする?」と諭されました。改めて事業承継への取組を進めるよう電話でお伝えました。


 この話には後日譚があります。筆者在任中もう一度、この会社から運転資金の申込みがありました。事業承継について確認すると「開始した。承継者候補として孫が店を手伝うことになった」と、社長とお孫さんが面談に訪れてくれました。「お勧めしてよかった」と嬉しく感じたことを昨日のように鮮やかに思い出します。



金融機関が気にかけていること

 この例から、金融機関は中小企業の事業承継に大きな関心を寄せており、それに取り組む企業をプラス評価することが、ご理解頂けると思います。金融機関は融資先である顧客中小企業に、しっかりと事業を行い利益をあげるよう願っています。半ば運命共同体のような感覚です。特に「中小企業がうまくいかなかったら大企業に」、「この地域でうまくいかなかったら別の地域に」などと考えられない地域密着金融機関(中堅以下の地方銀行・信用金庫・信用組合)は、事業承継に前向き・真摯に取り組む中小企業を「将来にわたってしっかり事業を続ける決意を固め、それを行動に移している」と高く評価しています。


 「当社が事業承継取組中と知った金融機関は『リスクがある』と判断する」との考えは、お化けのように実態がありません。これに怯えないでください。実際は全く逆で、社長が一定の年齢を超えているのに事業承継を検討していないことがリスクだと考えています。



 「なるほど。取引先や金融機関を考えると事業承継は軽々に着手できないと考えていたが、そうではないのだな。我が身優先で着手しなければならないのだな。」仰る通りです。「しかし何から手をつけたら良いのか分からない。」事業承継を多数ご支援してきた弁護士、事業承継コンサルタント、そして中小企業診断士によるセミナーが実施されます(8/17)。是非そこで、何から始めるのが良いのか確認してみてください。

https://www.innovations-i.com/seminar/schedule/2731.html




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


印刷版のダウンロードはこちらから




なお、冒頭の写真は写真ACからacworksさんご提供によるものです。acworksさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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