「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第24回

経営力向上計画をバネにする(下)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
現在、資金調達が新時代に突入したと言えます。金融検査マニュアルに準拠した格付けによる融資判断から、中小企業の事業性を評価して融資判断する時代に変わろうとしているのです。金融機関に事業性評価融資を検討してもらうため「経営力向上計画」を作成するというアプローチがあります。先週から、この計画の特徴や作成するメリットなどについて、ご説明しているところです。

経営力向上計画の作成は、中小企業自身にとっての「バネ」にもなります。「儲ける力をつけるために、これから何に取り組んでいけば良いのだろうか」を考えるように促す欄があり、それを考えるためのヒントも提示されているからです。今週は「5 経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標」と「6 経営力向上の内容」及び「7 経営力向上を実施するために必要な資金の額及びその調達方法」についてご説明します。


5 経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標

経営力向上計画では、認定を受けるためには3年間ないし5年間の計画期間で労働生産性を一定比率以上(5年計画の場合3%以上、4年計画の場合2.5%以上、3年計画の場合2%以上)向上させるよう目指すことが求められています。労働生産性とは、利益の他、従業員の給料や減価償却費の合計値を労働時間(年間の勤務時間×従業員人数)で割り算した数字です。目標数値を明確に掲げることで、企業力向上計画にきちんと取り組んで付加価値増大にフォーカスする促されます。


6 経営力向上の内容

この欄が、経営力向上計画の中心部分で「先ほど示した数値目標を実現するために我が社は何をするのか」を表現する部分です。「そんなことを言われても、わからないよ。自分たちで思いつくようなことは、これまで取り組んできたのだから。新たな策を考えとと言われても、そう簡単には思いつかない。」そう思われる方も、多いと思います。この点で、経営改善の方向性を考えるヒントが提供されていることが、経営力向上計画の最大の特徴だと言えます。

経営力向上計画には、実は一つの方針があると思われます。それは、「今までの事業を強化することによる収益力アップを考えていく」という方針です。「今までの事業を変えていくこと、もしくは別の事業に進出していく」こと等は考えないことになっています。これは、役所の都合によるものと考えられるでしょう。「今までの事業を変えていくこと、もしくは別の事業に進出していくこと等による収益力アップ」については、経営革新計画で対応することになっているのです。だから、経営力向上計画の守備範囲は、経営革新計画でフォローされている分野以外なのです。

このため経営力向上計画では「経営資源を事業活動において十分効果的に活用すること」が基本方針とされています。具体的には「事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成」、「財務内容の分析の結果の活用」、「商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用」、「経営能率の向上のための情報システムの構築」等を行うことだとされています。このように示されると「経営を強化するために新たな策を考えろと言われても、わからないよ。自分たちで思いつくことは、これまで取り組んできたのだから」と感じた方でも、今までやっていなかった分野に気が付くことができるかもしれません。

また、製造業や販売業など代表的な業種については、さらに詳細な指針が提示されています。例えば、売上高1億円未満の小売業については、以下の指針が示されています。

<経営状態の把握>
・店舗毎の損益管理
・PDCAサイクルの徹底

<仕⼊活動及び経費管理に関するIT及び施設の利⽤>
・事務作業のIT化
・ボランタリーチェーン等のネットワークを活⽤したITの導⼊、情報収集、仕⼊交渉⼒の獲得

<営業活動の強化>
・接客から得られる顧客の需要に関する情報に応じた品揃え及びきめ細やかな接客

<⼈材育成の強化>
・地域の⽀援機関等との連携による研修
・経営理念の共有
・マニュアルに記載された対応以外の適切な対応を可能とする教育

ここまで詳細に記載されていると、今まで手がけていなかった、もしくはあまり力を入れてこなかった取組み方針が、一つや二つ、あるのではないでしょうか?その中で、ご自分の会社に活用できそうな、効果があがりそうな取組みを選ぶことで、適切で効果的な計画を立てられる可能性があります。

なお「事業分野別指針」が存在する事業分野(業種)については、必ず当該指針を踏まえて計画を策定しなければならないことになっています。このため「事業分野別指針」が存在するかどうかについて、まず、以下のサイトから確認してください。存在しない場合には、「基本方針」を踏まえて策定することになります。
<「事業分野別指針」「基本方針」>
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/kihonhoushin.html


7 経営力向上を実施するために必要な資金の額及びその調達方法

「6 経営力向上の内容」に記載したことを実施するには、資金的な手当てが必要になる場合もあるでしょう。例えば「事務作業のIT化」に取り組むとした場合には、コンピューターやソフトウエア・LANシステムを導入すると共に、従業員に研修を施す必要があるかもしれません。このような資金についても予め計画しておくことにより、実施が円滑になるでしょう。これが、事業性評価融資を引き出すために経営力向上計画の策定する理由の一つでもあります。

但し、ここで注意しなければならないのは、ここに資金の必要性を記載したからといって、金融機関が融資してくれることを保証するものではないということです。政府系金融機関である日本政策金融公庫の名前を出したとしても、それは変わりません。融資は、経営力向上計画を認定する国(具体的には地方の経済産業局など)ではなく、個々の金融機関が決めることだからです。このため「ー中小企業等経営強化法ー 経営力向上計画 策定の手引き」には、金融支援を受けたい場合について「計画申請前に関係機関にご相談頂く必要があります(P.2)」とあります。


経営力向上計画を概ね書き上げた時点で金融機関に持参し、相談することは、「事業性評価をベースに融資を検討してもらいたいと思っている」という意思表示になります。今までのやち方では融資が得られなかったけれど、これからは儲かる会社を目指して頑張りたいという経営者の皆さんには、この方法を、ぜひ試していただけたらと思います。


(「8 経営力向上設備等の種類」については、本コラムの趣旨と離れるので、割愛させて頂きます。)

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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