「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第277回

黒字倒産の回避に必要となる事業計画

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



最近、倒産が増加しているとの報道を目にすることが多くなり、中でも黒字倒産の増加が懸念されることについて、6月に2回にわたって考えてみました。今回は、資金繰り資金の調達困難を原因とする黒字倒産を回避するための計画について考えてみます。



黒字倒産の2つのパターン

調査会社によると今年に入り倒産件数が増えているそうです。販売不振や輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振などの『不況型倒産』の増加が目を引きます。中小企業の支援者や金融機関としての実感ともマッチしており、中でも黒字倒産が多くなったとの印象があります。倒産は回避できたとしても廃業する企業もあるでしょう。

統計上は「事業承継者不在」などと分類される場合でも、その遠因として「赤字なので事業継続の見込みが立たない」が挙げられ、その理由が「黒字なのに資金繰りが回らない」ならば、黒字倒産の構図がもたらす弊害の幅広さに圧倒される思いです。

黒字倒産の代表例は、決算書・残高試算表上は黒字なのにキャッシュが不足してしまい、それが原因で手形を決済できなかったり金融機関への返済を連続して滞らせてしまった結果、金融機関取引停止処分を受けて倒産に至るパターンです。決算書・残高試算表の収支だけを見て現預金残高を予測すると「支払うべきお金」を過小評価してしまい、預金残高の不足を告げられるまで気が付かずに不払いを発生、倒産に至ってしまうのです。

最近、注目されるようになったのは資金繰り資金の調達困難による黒字倒産です。借入の返済をビジネスからの利益(減価償却費等を含む)で賄えるなら問題ありませんが、それができない場合には返済原資(資金繰り資金)を確保する新たな借入を起こさなければなりません。少なからぬ企業が「資金繰り返済」を行っているので、金融機関も支援を継続する例が多かったのです。

しかしコロナ禍で状況が一変しました。連続して大幅赤字を出してしまい債務超過に陥ってしまった企業については、少々の黒字では「持続化が可能な企業」と判断してもらえず、資金繰り返済資金が調達できなくて倒産・廃業に至る事態となったのです。



黒字倒産の回避に必要な事業計画とは

黒字倒産を避けるため企業は何をすれば良いか?実は答えは既に2022年に「中小企業活性化パッケージNEXT」として示唆されました。事業改善・事業再生を目指す計画を策定、金融機関のモニタリング等を受けながら真摯に取り組んで企業(事業)を健全化するのです。ほぼ同時期に「伴走支援型特別保証」が発表され、足並みを揃える形となりました。当該特別保証は2024年6月末で廃止され「経営改善サポート保証制度」に代わられましたが、計画に基づく事業改善・事業再生を前提とすることに変化はありません。

URL:https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sinyouhosyou/kaizen_saisei.html

では企業はどのような計画を策定するのでしょうか?経営改善サポート保証制度の概要説明では、「経営サポート会議や中⼩企業活性化協議会等の⽀援により作成した経営改善・再⽣計画」と示されています。内容としてはこれまでの経緯から、中小企業金融円滑化法時代にリスケジュールする企業が策定することとなっていた「実現性の高い抜本的な経営再建計画」」レベルが想定されていると考えられます。

「必要関係者との同意が得られている」そして「売上高、費用及び利益予測等の想定が十分に厳しいものになっている」ゆえに実現可能性が高いと判断され、「概ね3年後には当該債務者の業況が良好で、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる状態(金融検査マニュアル時代は「正常先」と表現されていた)にまで改善するために必要な事業改善策等が示さている」ゆえに抜本的と表現できる内容の計画です。

現在、企業を持続化するための資金調達に苦労している企業からは「高すぎる」と感じられるかも知れません。「以前よりハードルが上がったのではないか」との疑問には「そう思われる」と感じています。世界中が急速に変化すると共にコロナ禍など今まで想定外のリスクも発生するようになったので、企業・事業を持続させる基準が上がってしまったのです。

もしそうならば「できるだけ手を抜き、ぎりぎり合格点を目指そう」ではなく、「合格点を余裕で超えられるよう、力を尽くそう」と決心する方が、持続化の可能性が高まると考えられます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は 写真AC から 月舟さんご提供によるものです。月舟さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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