「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第39回

金融機関の考えを知る

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
これまで何回もお伝えしてきたように、現在は、金融庁が地域金融機関に「中小企業の支援をするように」との呼びかけを強めている一方で、地域金融機関としては準備がなかなか整わないといった状況です。事業性評価融資を推進していると大々的に打ち出している金融機関は、事実上ありません。一方で、中小企業の側からしっかりとした事業計画書を作成した上で借入を申し込んだ場合には、受け取って、これまでの「債務者格付け」とは違った視点で融資判断してくれる金融機関もあるようです。


金融機関の考えを知る

現状、事業性評価でもって融資判断してくれる金融機関がどれくらいの割合で存在するか、皆さんがお申し込みになった金融機関が事業性評価融資を行う金融機関なのか、事前に、公開情報でもって判断する方法はないようです。では、情報は全く手に入らないかというと、そうではありません。自分で集めるという方法があります。

「事業性評価融資を依頼する事業計画書」を作成して打診しても断られた場合、それでもって「我が社を、事業性でもって評価して融資判断してくれる金融機関は存在しないようだ」と考える必要はありません。もし断られたとしても、別の金融機関に打診することができます。いくつか金融機関の門を叩いているうちに、もしかしたら、事業性評価で融資してくれる金融機関に出会えるかもしれません。

複数の金融機関に打診するうちに、どの金融機関が事業性評価融資を行なってくれるのか、情報を集めることができます。あなたにとって必要なのは、全国レベルの情報ではありません。ご自分の周囲にある、今まで付き合ってきた、もしくは近辺にあるのでお付き合いができるかもしれない金融機関についての情報があれば良いのです。ご自分自身で集めていくのが、もっとも「手取り早い」といえます。


断った理由を聞く

どんな借入の場合でも、ある金融機関への融資申込み(申込書を提出した場合)を断られた場合には、その理由をお聞きするように、アドバイスしています。現在、金融庁は金融機関に対して、融資を断る場合には理由を説明するようにと指導していますから、質問して断られる場合は、まずありません。

「金融機関の断りの理由を聞くと、すごく頭にくるからな。聞きたくないんだ」という社長さんがおられます。もし、金融機関が病院のような位置付けだったら、確かに「断る」というのは重大な行為でしょう。自分で治療できないとしても、ふさわしい病院を探して紹介してもらいたいものです。しかし金融機関は、これとは少し違った存在ではないかと、社長さんにお話ししています。お金を貸すというのは「支援」なのです。

皆さんは、事情を知った上で、必要な策について熟知した上で支援してくれる先と、事情を知らないで策についても無知な先と、どちらから支援を受けたいと思うでしょうか?事情を知り、策を熟知した先から支援を受けたいと思われるでしょう。それは、支援をする側も同じです。金融機関は、自分の持つ知識・ノウハウなどを鑑みながら、個別企業を支援するかどうかを判断している可能性があります。地域や業種などで知識・ノウハウが足りていないなら、「債務者格付け」で高位に位置付けられる企業以外には消極的になってしまうかもしれません。

また、貴社と金融機関との個別の関係性も大切です。金融機関は、融資の意思決定を誰が行うかの基準を持っています。多くの金融機関は融資残高(今まで融資した金額の現在残高)で判断しています。例えば「融資残高が2,000万円以内の場合には支店長決裁、2,000万円を超える場合には本店審査部決裁」というようにです。多くの支店では、「書類での表現が難しい部分も多々ある事業性評価融資は、関係者全員が社長の顔を知っている支店長決裁では取り組めるけれど、全て書類で説明しなければならない本店審査部決裁では難しい」と考えているようです。

金融機関が断る理由が解れば、しめたものです。計画書の書き方を改善できるかもしれません。アプローチする先を変えた方が良いことに気が付くかもしれません。そのような改善を加えることで、事業性評価融資を受ける可能性を高めることができるのです。


融資してくれた理由を聞く

それにプラスして、事業性評価融資の場合には、融資してくれた場合にも「何を基準に判断して融資してくれたのか、聞いてみましょう」とお勧めしています。「そんなこと、教えてくれるのだろうか?そもそも、融資を判断する決め手なんてものは、あるのだろうか?」という疑問が湧いてきそうですが、多くの場合、教えてくれます。金融機関は、融資の判断を行う場合は「りん議」という仕組みで持って意思決定しているからです。

「りん議」とは、難しい表現ですが、「担当者が『A社から○◯万円の融資申込みがあった。審査したところ、貸出できない決定的な理由はなく、◯◯の理由から融資は妥当と考える』という文書を作成・上司に渡す(起案)。上司は当該文書を読んでチェックし、OKだと思ったら押印して、更に自分の上司に渡す。これを、最終意思決定者に到達するまで、次々と続けていく」という意思決定方法です。上司が「検討すべき要素が盛り込まれていない」もしくは「推論・判断に改善すべき点がある」と考えたら起案者に差し戻し、担当者はそれを反映した文書を書き直して再度、同じプロセスをたどります。こうして、意思決定に関わったすべての人が納得するロジックが書かれた文書が完成し、意思決定が行われるのです。

金融機関の意思決定は、このようにして行われますから、特定の申込み案件が認められた理由を、担当者が知らない訳はありません。そして、質問すれば(筆者が関わった案件では)ほとんどの場合、教えてくれています。これを知ることで、金融機関が何を基準にして融資判断したのかを、知ることができます。

金融機関が何をみて融資してくれたかを知ることができると、今後の戦略に活用することができます。自分では「自社の高い技術力」に自信を持っていたけれど、金融機関は「関連企業との連携実績」を評価していたかもしれません。すると、今後の事業計画書には、連携実績をより丁寧に説明することができます。連携先を増やしたり、特定先との連携実績を積み重ねていくことにより、金融機関の好感度を上げることもできるでしょう。


このように、金融機関の考えを知ることは、今後の資金調達においてとても参考になります。事業を進める上での指針になるかもしれません。是非、積極的に情報収集してみてください。
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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