「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第63回

資金繰りを計画する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 事業に資金は不可欠ですが、ほとんどの企業にとって必要資金を完全に自前で調達することは困難です。借入によって調達しなければなりません。一度調達したら以降は完済に向けて返済して行ければ良いのですが、それを行える企業は、実は少数です。多くの企業が「毎月の借入金返済のため手元資金が不足してしまったので、新たに借入する(これを「資金繰り返済」といいます)」のが実態です。それはある意味仕方ないことですが、問題は、多くの企業が資金繰り返済を計画的に行なっていないことです。 


資金繰りで「幾ら必要か」を認識する

 資金繰り返済がなぜ必要になるのか?答えはいたってシンプルで「毎月の返済に必要な資金が十分に会社にない」からです。例えば初年度1月1日(0年度12月31日)時点で6千万円の借入金(返済期間5年)があり、毎年300万円の利益と300万円の減価償却費を計上している企業を考えてみましょう(以下の例は、事業では資金の過不足がない前提にしています。事業上の資金調達が必要になる場合は、以下よりもっと借金が膨れます)。


 6000万円を一口で借り入れていたとしましょう。毎月の元本返済金は100万円(6千万円÷60)、年間では1200万円となります。一方で、この企業が返済に使えるキャッシュは600万円(利益:300万円+減価償却費:300万円)に過ぎないため、1年間では600万円キャッシュが不足します。この状況を予測して「初年度の年末に600万円の借入をする」と計画しておけば、先立って秋から金融機関に相談でき、余裕を持って資金調達できます。


 にも関わらず、少なからぬ中小企業が、このような計画を立てていません。仕入れや給料の支払いに窮するようになってはじめて借入のための手続きを始めます。「今月末の支払い資金が枯渇しているので大至急で融資してくれ」と要望し、審査に時間を要していると「金融機関は中小企業の実態がわかっていない。冷たい」との批判を聞く時がありますが、金融機関は「資金繰りを計算して、もっと早く申し込んでくれたら良かったのに」と感じているはずです。



安易に資金調達するワナ

 資金繰り資金借入の必要性が理解できたら、次に、資金調達の方法についても検討しましょう。そうしなければ、さっきの構図が成り立たなくなってしまうからです。


 先ほどの例で初年度末に600万円の借り入れた企業は、その後、どうなるでしょうか? 初年度末借入残高は5400万円(既存の借入金4800万円プラス新規借入金600万円)で計算通り(6000万円マイナス利益+減価償却費600万円)ですが、2年度目は計画通りにはなりません。初年度末に新たに借り入れた600万円の返済金(10万円)がプラスされ、月額110万円、年額1320万円返済しなければならなくなります。すると、2年度末に借入すべき金額は約120万円増えて720万円です。3年度目は新たに借り入れた720万円の返済金(12万円)がプラスされ、月額122万円、年額約1464万円返済しなければならなくなって、借り入れなければならない金額は864万円になってしまいます。借入金が、どんどん増えていくのです。 



借入口数を計画する

 このような状況になったのは「借入口数」が問題です。借り入れる時、それまでの借入はそのままに新しい借入を起こしたので、返済すべき金額が増えてしまったのです。新たに借入をする時に、全体の借入口数を維持するように借り入れれば、このような事態を避けることができます。


 「そんな、都合の良いことができるのだろうか?」実は、工夫をすれば可能です。金融機関は「当初貸付金額から、毎月の返済が進んで半額程度になると、当初貸付金額を復活させる貸付けを行なってくれる可能性が高い」といわれています(金融機関の取引方針や、借入企業の業況などに左右されます)。この行動パターンを利用して毎年1000万円以上の空き枠ができるように借入口数を調整するのです。


 例えば当初借入金額が2500万円で返済年数が5年だと、年間で500万円ずつ借入残高が減少します。このような借入を毎年末に行なったので0年度12月31日現在の借入残高が6000万円だったとしましょう。その内訳は、0年度末に行なった2500万円と、-1年度末に借り入れた2500万円の残高2000万円、そして-2年度末に借り入れた2500万円の1500万円の3口です。


 この一年後(初年度12月31日現在)を考えてみましょう。0年度末に借り入れた2500万円の残高が2000万円になっており、-1年度末に借り入れた2500万円の残高は1500万円、そして-2年度末に借り入れた2500万円の残高は1000万円と、全体で1500万円減少しています。一方で返済原資のキャッシュは600万円なので900万円不足しますが、−2年度末に借り入れた残額が1000万円と当初の2500万円以下の半分以下になっていますから、これを新たな借入金と一本化して1900万円の借入を起こすことで対応できます。


 翌年度は、2500万円の年間返済額500万円が2口と、1900万円の年間返済額380万円で1380万円、ところが年間の返済資金は600万円なので、不足額780万円について借入することになります。毎年、借金を減らせます。



 資金調達の巧拙が企業の行く末を左右する

 同じ借入残高、同じキャッシュフローでも、借入金を増やす借り方と減らせる借り方があります。ここは是非とも、減らす借り方をしたいものです。では、それを金融機関に依頼すれば実現するのでしょうか?それは無理です。金融機関は、そこまで考えてくれません。自分で考えて、提案しなければなりません。「それは無理だ!」もしそうなら、現状を分析し、できるだけ借入金を減らせる借り方ができるよう長期的にお手伝いできる専門家の支援を検討するのはいかがでしょうか?  




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙1枚のボリュームなのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達できる企業になるための方法をしっかりと学んでみてください。



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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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