「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第285回

巨大企業はなぜ経営方針を変更したのか

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



最近ある大手流通業持株会社が計画する改革が話題になっています。巨大企業のケースですが、中小企業にとっても参考になるので、考えてみます。



組織と社名を変える変革の理由

先日、ある総合流通業持株会社が経営方針を発表しました。社名と中間持株会社を設置する組織構成の変更です。これについて「ドラスティックだ」との声も「形式的な変更だ」との声も聞こえてきます。筆者はドラスティックな変更だとの解釈です。というか「中間持株会社を置く改革を形だけにして欲しくない。是非、実効ある改革にして欲しい」と考えています。


当該企業体について最近、海外同業者が買収を模索しているとの報道がなされました。当該企業体はもちろん買収されたくないとの姿勢です。このため今回改革案は、買収されないための対処策でしょう。では、なぜ中間持株会社の設置が買収阻止に繋がるのでしょうか?

当該企業体の2本柱はコンビニエンスストアとスーパーマーケットです(以下「異業態同居体制」と言います)。一方が祖業、他方が新規追加事業であるという歴史的な理由の他、両事業の取扱品目はかなりの部分が重複するので商品開発や流通の共通化による効率性向上などが目指せます。一方で今回、中間持株会社を設置したとは、両者のガバナンスを分離させ、異業態同居体制の(一部)解消を目指したものと考えられます。

企業買収は様々な目的で行われますが、一つに「あの会社の経営陣がやっている経営は上手くない。我々の方がもっと上手に経営でき、企業はもっと利益を出せるようになる」という思惑があります。この場合に買収を試みられてしまった企業は防御策を考えるにあたり「買収を試みた企業は、我が社の何が弱点だと考えているか」と模索しなければなりません。

当該企業体の場合「異業態同居体制による『遠慮』が、我が企業体のパフォーマンスを落としていると判断したに違いない」と考えたのではないでしょうか。このため異業態同居体制の分離策を先んじで当該企業体として実行することで、買収への動きを封じ込めようと考えたのではないかと思われます。



問題とされた「遠慮」とその怖さ

異業態同居体制により当該企業体に生じた「遠慮」とは何か?例えば推察として一方が「我が社は懸命に努力しても伸び悩みが続いている。その理由はグループ内他社が躍進し客を奪っているからだ。同一の市場に我が業態と他社業態があるのは、両社を合わせて売上・利益をグループとして極大化することにある。しかし今、他社が遠慮しないのでこの構図が崩れている」との議論があり、それが受け入れられてしまうと遠慮が発生します。

一方でこのような遠慮が肯定・具体化されてしまうと、一番得をするのは誰か?グループ内各社でも持株会社でもありません。競合他社です。バトルロワイアルの競争の中、最初に攻撃すべきは「手加減している相手」に決まっています。

M&Aを進める企業は、社内に低迷のタネを抱える会社を、目を皿のようにして探しています。当該会社はだからこそ「異業態同居体制」の解消を目指し、M&Aから逃れようとしたのだと考えられます。



中小企業への示唆

以上の分析は中小企業にも教訓になると思われます。中小企業も一歩立ち止まって「我が社は今、持続化や発展のために徹底実行が必要なのに、誰かへの遠慮が原因で全力を尽くしていないという事態が生じていないだろうか」と考えることをお勧めします。


「全力を尽くさないなんて、あるはずない!」との声が聞こえてきそうです。しかし例えば値上げ交渉や新規顧客開拓で、全力を尽くしているでしょうか?

「受け入れられる可能性が低いので、値上げ交渉はしていない。」これも遠慮の1つです。確かに簡単にではありません。強硬姿勢で臨めば成功できるとも思えません。納得を得られるよう、遠慮なく知恵を振り絞りましょう。

「営業マンはルート営業が得意で、新規顧客開拓は慣れていない。」そのような「無理はさせられない」との遠慮は捨て、新規開拓にも慣れられるよう段階的に進めましょう。さもなくば永遠に新規顧客開拓はできません。我が社に来るはずの潜在顧客へのアプローチを遠慮するメリットは競合企業に流れていきます。そうなりたくなかったら、遠慮ではなく積極性を身に着けましょう。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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