「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第72回

忘年会か、記年会か

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 師走も中盤となり「忘年会」真っ盛りのシーズンだと思います。その中で先日、製造業に携わる若手経営者が集まるある会で、幹事を務める社長さんが冒頭で「私たちは年を忘れてはいけない。今年あったことをきちんと記憶して、来年に生かしてこそ躍進がある。だから今日の会を記年会としよう」と挨拶されました。これを聞いて筆者ばかりでなく参加者のみなさんが「上手いことを言うな」と感心した次第です。


 一年を過ごす中で「忘れたい」と思うことも、当然あるでしょう(筆者にも、あります)。しかし、経営者として日々を過ごす中では、忘れるべきことよりも覚えておくべきことの方が多いのではないかと思います。今日はその点について、考えてみましょう。



社員の頑張りを覚えている

その後、各テーブルでは「何を覚えておけば良いか」が議論になりました(もちろん、いつもの話題(景気、世相、政治、ゴルフなど)で盛り上がったテーブルもありました)。その中で多くの社長が挙げたのは「社員の頑張り」です。会社は社員によって支えられています。会社のあげた売上や、そのもととなった製品製造、サービス提供などは全て社員が行なったことです。それを覚えておくのはとても大切なことです。


 「しかし我が社のパフォーマンスは、今年は芳しくなかった。その責任の一端は社員にもある。手放しでは感謝できない。」そのお気持ち、分かります。しかし、それを責めれば事態は改善するのでしょうか。数多くの会社を見てきた中小企業診断士としての経験からすると、責めることで成果が出ることはあまりありません。知恵を集めることから始まることが多いのです。


 社員から知恵を集める第一歩を踏みしめる役割は社員が果たすか、社長が果たすか、いずれかと聞かれれば迷いなく「社長からだ」と答えます。「難しいな、社員に聞くだなんて。提案を求めても無視されることの方が多いのだから。」確かにそうかもしれません。しかしそういう場合こそ、まず社員の頑張りを認めることが、協力を引き出す秘訣になるようです。「今年も頑張ってくれたな」と言えば社員は「ありがとうございます。私たちにも至らないことが多かったのに」と答えることが多でしょう。そこで「ほう、それは何?どんな風に改めれば良かったと思う?」と聞くと、自然に社員の知恵を集められる場合があります。



お客様の恩を覚えている

 次に多く挙げられたのは「お客様からの恩」でした。これに説明は必要ないでしょう。景気が良い時も悪い時も、自社を選んでくれるお客様がいてくれることは、会社が成り立つ必要条件です。もちろん企業の側でも、お客様に認めてもらうために大限の努力をしています。しかし、全ての潜在顧客が自分の方を向いてくれる訳ではありません。そういう状況下「よくぞ当社を選んでくれた」という感謝が見える企業とそうでない企業とでは、顧客の支持に大きな違いが出るでしょう。



取引先の恩を覚えている

 また、ひときわ声が大きかったのは「取引先からの恩」でした。その会は製造業の社長が多く集まる会でした。東京下町を地場とする中小製造業者は、元請け・下請けという垂直的分業関係だけでなく「仲間と協力しながら仕事を成し遂げる」水平的分業関係の中で仕事をすることが多く、その中で無数の「仲間を助けた・仲間に助けられた」が生じています。恩を売った、買ったと言うよりも、そういう仲間があり一緒に仕事ができていることが、デフレの苦しい事業環境下で事業を続けられる秘訣なのではと感じました。そんな仲間と師走の時間を共有することは、とりもなおさず「忘年会」ではなく「記年会」である所以でしょう。



金融機関との取引

 それともう一つ、企業経営の中で覚えておいてもらいたいのは金融機関との取引です。「そうか、冷たい仕打ちをされたことを根に持っていれば良いのだな」そのお気持ちはわかりますが、残念ながら、その感覚は生産性がありません。「金融機関にも一部の理があるのだから、それを踏まえた対応ができなかっただろうか」を覚えておいてもらいたいと言うことです。


 金融機関といえども営利企業です。皆さんの会社も「掛取引」を申し込んできた企業には「本当に信頼して良いのだろうか」をきちんとチェックすることでしょう。金融機関も同じです。預金者から預かったお金を投資して良いか、きっちりとチェックしています。


 「前回に借りられなかったのは、良い条件を引き出せなかったのは、何故なのだろうか。今後はどうすれば良いのだろうか」その気持ちを忘れると次にもまた同じ状況になりそうです。それを心に留め、改めることで、来年はより良い結果が得られるかもしれません。





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本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。


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プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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