「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第218回

なぜ上手くいかないのか(合理的道筋がない)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


2022年も半分過ぎました。先日まで新聞等で「景気動向調査で明るい兆しがある」との記事を見かけましたが、中小企業経営者の皆さんから「統計は『去年との比較』なので、統計上は好転しても実態は楽にはなっていない。先行きはとても暗い」などのお話をお聞きしていました。その中で、ここに来て「ウクライナ情勢や長引くコロナ禍などの影響で楽観視できない、世界的な不景気になる可能性もある」との記事を見かけます。


この状況では既存事業を盛り立てる事業改善や、これまで行ったことのない取組・ビジネス等に踏み出す事業再構築への取組が急務ですが、「取組が失敗してしまうかもしれない」という恐怖感などからスタートできない企業も少なくないようです。今回は、その理由の1つである「合理的な道筋が描かれていない」ことについて考えます。



事業改善・事業再構築が失敗に終わる理由

「事業改善・事業再構築に取り組むよう勧められるが、効果が得られなかった企業を多く目にしている。企業寿命を縮めてしまったケースすらある。それを思うと安易に踏み込めない。」仰る通りで、事業改善や事業再構築は「実現に漕ぎ着ける道筋が合理的に描けている」という条件を満たさなければ、企業の立ち直りに繋がらない場合があります。それがないと効果がないばかりか、逆効果になる可能性さえ、あるのです。


企業に伴走支援する専門家として筆者は「苦境から脱するための計画書を策定したけれど上手くいかなかった」事例を多数見てきました。コロナ禍前には「金融円滑化法の適用を受けてリスケジュール等を実施しているが、事業計画の実行が円滑に進捗していない。見直して欲しい」との金融機関からの要望を受けて支援した事例もあります。これらの多くで(いや、ほとんど全てで)「業績改善に向けた合理的な道筋」が描かれていませんでした。


そのような計画書を策定支援した専門家は、万が一私のコメントを耳にすることがあれば「道筋なら描いたぞ、戦略とアクションプランだ」と仰るでしょう。しかし、それでは足りない場合もあるのです。


例えばコロナ禍により来店者数が激減した居酒屋が惣菜小売販売業への転業を事業戦略とした場合を考えましょう。居酒屋の調理人は多種多様な料理を美味しく迅速・丁寧に提供できるので「惣菜店への転業に障害はない」と考えるかもしれません。そしてアクションプランとして「居酒屋客席部分を潰してショーケースやレジスペースを設ける店舗改装」を掲げる事業計画書をまとめます。しかしこれは多くの場合、合理的な道筋を描いたことにはなりません。


飲食店は「出来立てが美味しい料理」を目指しますが、惣菜店だと「冷たくても・温め直しても美味しい料理」が望まれるのでメニューや調理法を変える必要があるかもしれません。飲食店は「多品種少量のオーダーメイド生産」だが惣菜店は「中品種中量の見込み生産」なので、厨房装置や調理器具等を変え、働き手も見直す必要があります。仕入れ時に選ぶ素材も違うし、買う量も変わります。また惣菜店は居酒屋より料理の単価が下がるし酒類売上による利益がないので粗利率が低下するでしょう。つまり1日に来店してもらうべき顧客数が大幅に増えるので、広告や宣伝も変える必要があると考えられます。


「居酒屋から惣菜小売販売業へ転業」を事業戦略とし、「居酒屋客席部分をショーケースやレジスペースに店舗改装」をアクションプランとしたのでは、上に挙げた課題(実際にはその他の問題も順次、山ほど出てきます)について出たところ勝負で対応するしかありません。成功確率が低下し、コロナ禍で財務力が落ちているので、盛り返す前に退出を余儀なくされる可能性があります。



「実現に漕ぎ着ける合理的な道筋」を描く

では、どうすれば良いのか?先ほど挙げた「メニューや調理法の変更」、「多品種少量のオーダーメイド生産から中品種中量の見込み生産へのシフト(厨房装置や調理器具等の更新・働き手の見直し)」、「仕入れの変更」、「来店者数の大幅増大を目指す広告・宣伝」等への取組を、「業績改善に向けた合理的な道筋」として戦略・アクションプランに盛り込んでおくことが勧められます。


「しかし金融機関所定の計画書では求められていないぞ!」仰る通り、金融機関は主に数値計画を求め、それを見て金融機関として支援の可否等を判断します。一方、「業績改善に向けた合理的な道筋」は事業者自身のために描いておくものです。


「大切なことは分かったが、自分にできるだろうか?誰かと相談したい」と思われるなら是非、地域の「よろず支援拠点」などにご相談ください。StrateCutionsでもご相談に乗りますのでご連絡ください。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>



なお、冒頭の写真は 写真AC から fujiwara さんご提供によるものです。fujiwara さん、どうもありがとうございました。






 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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