「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第244回

自助努力を促すコロナ借換保証とする(提案)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



前回、金融機関からコロナ借換保証の利用を打診されながら結局、当該保証を使えなかった企業ケースを検討しました。今回は問題点を深掘りした上で、どのような影響を及ぼす可能性があるかについて考えてみます。



コロナ借換保証が利用できなかった企業のケース

前回、事例として検討した企業は地域製造業者を顧客とするBtoB企業です。2020年春にコロナ禍で売上・利益が激減、コロナ特別融資・コロナ特別保証等を活用して急場をしのぎましたが、コロナ禍が引き続いたこと等により顧客企業の操業度が戻らなかったため売上・利益が満足に回復せず、資金の急速な流出が止まりませんでした。


このため資金繰り破綻・倒産を防ぐべく「早期経営改善計画策定支援(ポストコロナ持続的発展計画事業、以下「早期改善計画」と言います)」を活用、必死の自助努力を行っていた最中に、取引金融機関からコロナ借換保証の打診がありました。社長は「綱渡りの張り詰めた心理状態から救われる(事業改善の手綱は緩めるつもりはない)」とほっとしたとのこと。しかし期待は大きく裏切られコロナ借換保証は利用できないと判断されました。当該保証の「売上または利益率が5%以上減少など」要件を満たしていないことが原因だったそうです。



コロナ関連諸制度の目的と要件

なぜコロナ借換保証に売上減少要件が付されたのか?昨年創設された「伴走支援型特別保証(以下「伴走支援保証」と言います)」を活用した制度だからと考えられます。伴走支援保証はゼロゼロ融資などコロナ特別保証を引き継いだ制度で、セーフティネット保証制度に行動計画書の策定と金融機関の伴走支援要件を加えたものです。


コロナ特別保証は「未曽有の経済インシデントに襲われた中小企業を倒産から救う」ことを目的としており、売上・利益が一定以上減少してしまった企業に限る要件は合理的だったと考えられます。この制度のおかげでコロナ禍にあっても中小企業の倒産は顕著に防止されました。


その後に設けられた「伴走支援型特別保証」は、「コロナ禍の開始から約3年が経過した中で売上・利益は減少しているが、しっかり自助努力すると共に金融機関も支援態勢にある企業」の支援を目的としており、こちらも合理的な要件だったと考えられます。


今回「コロナ借換保証」は、それからまた約一年経過後に設けられました。以上の状況からすると「事業改善の取組を始め小さいながらも成果が現れつつあるが、資金繰りが顕著に改善するには至っていない。ここで据置期間が満了して返済に窮するとせっかくの改善努力が水泡に帰してしまうので、借換により返済負担を軽減したい企業への支援」が、今までの展開に沿った合理的な方向性でしょう。


売上・利益が減少する企業を支援に含めることはかまいませんが、「売上・利益減少要件」を金科玉条にして自助努力する企業を排除するのは政策として本末転倒と言わざるを得ません。



自助努力する企業を挫く制度であってはならない

今回の事件は、コロナ禍で苦しめられてきた企業を支援する一連制度の終盤において、コロナ借換保証が政策目的にそぐわない制度になっているという、大変残念な現象だと思われます。


2020年初頭からコロナ禍をはじめとした経済インシデントが次々と発生しましたが、政府による諸制度のおかげで中小企業の倒産は最低限に抑えられました。一方で、これらが「ゾンビ企業の温存に繋がった」との批判もあるのも事実です。


これら諸制度が「中小企業への有効な緊急避難措置」だったのか、それとも「ゾンビ企業製造装置」だったのかは、自ずから決まっている訳ではありません。一連の制度が整合的に、中小企業を窮地から守り、自助努力を促し、途中の苦境にあっても持続化させ、最終的に回復・発展軌道に乗せられるかどうかで決まります。


コロナ借換保証は、伴走支援保証の精神を踏襲して中小企業に自助努力を促し成果に繋げることを目指す必要があります。すなわち自助努力しているので売上・利益減少要件を満たさない企業は、利用可能でなければなりません(売上・利益が減少する企業を含めるのは構いません)。


さもなくばコロナ借換保証は中小企業に「事業改善に取り組むのは危険だ。せっかく設けられたコロナ借換保証が利用できず資金繰りがひっ迫してしまう可能性がある」との印象を持たせる可能性があります。


中小企業が「早期改善計画を策定して良かった。自助努力を完遂し会社を守ることができた。途中の危機時にもコロナ借換保証で守られた」と言える制度とするため、早期改善計画を活用して自助努力に励む企業がコロナ借換保証を利用できる制度改正を切に望む次第です。




本コラムの印刷版を用意しています


本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





なお、冒頭の写真は 写真AC から  fujiwara さんご提供によるものです。 fujiwara さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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