「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第155回

自分がいないと困る人・企業を創造する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



新型コロナウイルス感染症による経済の停滞は、その裏で、社会のあり方を根本的に変えたと考えられます。例えば今、政府が推奨しているテレワークは、コロナ禍が終わればなくなり、以前のように働き手が満員電車に乗って通勤する日が再来するのでしょうか?もちろん、全員がテレワークを続ける訳ではないでしょうが、全員が職場に戻る訳でもありません。ビジネス街の人出は確実に減少します。また、今までリアルな買い物を楽しみにしていたが、コロナ禍でやむなく通信販売を利用し、今では通販の虜になった人もいることでしょう。今まで自店のお客様だった人が、今では他店(通販サイト)のお客様に変わっているかもしれません。


このような社会的な変化が生じた時、どうすべきか?機械化に抵抗したラッダイト運動の顛末をはじめとして、歴史は「以前を取り戻そう」という動きが失敗することを示しています。自分自身が変わっていくしかありません。今回も、前回に続いて「どう変わるか」を考えます。



「地域に生きるピース」が目指すアプローチ

前回、「中小企業は生産性の向上を目指すべき」という主張がある中、それは優先課題ではなく、「地域に生きるピース」を目指すアプローチを優先すべき、とご提案しました。今、中小企業ひいては全ての企業が陥っているのは行動制限などを理由とした売上不足だからです。生産性向上は、売上拡大に直接には繋がりません。一方で地域に生きるピース(構成員)となるアプローチだと、今までは自分のお客様でなかった人や企業も、お客様になってくれる可能性があります。それを目指すのです。


「地域に生きるピース」の意味を、ここで改めて考えてみましょう。筆者はこの言葉に、「地域に必要な構成員となること。自社がなくなると、まるでピースがなくなったジグゾーパズルのように『周囲が大変に困る』と感じてもらえるような状況を目指すこと」という意味を込めています。「ならば地域に根付いた小売業である当店は、自然と地域に生きるピースになっているな。」おっしゃる通りだと思います。でも、それに甘んじるのは勿体ないです。地域へ根付いた度合いを、もっともっと高めることができます。以前にご説明した東京新宿早稲田地域の商店街による「デリバリー・サービス」は一つの例といえるでしょう。当該サービスを設け、参加することで、地域のピースとしての意味合いを高めていけるのです。



他の業種・業態は、どう対処できるか

一方で、地域に根差す小売業や個人向けサービス業等以外の業種・業態は、どう対処できるでしょうか?例えば事業サービスを行う業種・業態は、地域の店舗等をターゲットにする企業を除いて「地域に生きるピース」となるのは難しいでしょう。ある地域に何十年も立地しておきながら、主要な顧客は地域には存在せず、仕入れ元も販売先も遠くの業者ばかり、という企業もあります。このような業種・業態では「地域で生きる」という言葉を「市場・商流の中で」に置き換えられます。「生きる」という意味は、地域の場合と同じです。「市場・商流の中で必要な構成員となる。自社がなくなると、まるでピースがなくなったジグゾーパズルのように『周囲が大変に困る』と感じてもらえる状況を目指す」のです。

「それは意外と難しい。BtoBの場合、我が社がいなくなれば次がすぐに入ってくる。そういう競争の中で、お客様・取引先を奪い、奪われする毎日だ。」確かに、今までは仰るような状況だったでしょう。「これからは、違うのか?」状況が異なる場合は、少なくないでしょう。例えば「非接触型の取引」です。コロナ禍の影響で、人と人との接触を避ける取引形態に脚光が当てられました。ビジネス・プロセスIT化への要望が高まっています。今までも業務プロセスのIT化は、迅速性や事務コストの節減の観点で推奨されましたが、なぜかそのメリットに目が向けられませんでした。政府はIT補助金などで推進しましたが、応じる事業者は少なかったのです。



コロナ前後に生まれた「ないと困る」を実現する

このような状況下、いち早くビジネスプロセスのIT化に取り組み、取引を非接触型に切り替えることができるかも知れません。提供する製品やサービスでは差別化が難しくても、今まで同業者が取り組んでいなかった(それはつまり、自社自身も取り組んでいなかったということですが)取り組みを行うことで、他にはないユニークなピースになれる可能性があります。それは同時に取引スピードを高速化し、事務を省力化します。当社のみならず、相手に与えるメリットも少なくありません。

時代が変わると、お客様や取引先の要望も変わります。それは全く新しい財やサービスのこともあれば、今までも存在していたものかも知れません。後者であれば、いち早く取り入れることで「ないと困る!」と思ってくれるお客様・取引先を創造できるかも知れません。そのようなチャンスを是非、探ってみてください。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACから fujiwara さんご提供によるものです。fujiwara さん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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