「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第25回

金融機関は経営者について何を見ているか?

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
金融機関は、業績ばかりではなく経営者も見ているとお話しすると、「どんなところを見ているのだろう?」というご質問が、多く寄せられます。これに正確に答えようとすると「金融機関によって異なるだろう」と言うしかありませんが、一定の方向性はあると思います。これについて、いつもご説明していることをお伝えしたいと思います。


返済する気があるか?それとも?

このようなお話になった時に、よくあるのは「金融機関って、結局は、返済できるかどうかを見ているんだろう?つまり、金持ちかどうかを判断しようとしている訳だ」というご意見です。このご意見、確かに一面を突いていますが、それだけではないと思います。

「金持ちかどうか」だけを判断しようとしている訳ではないことは、金融機関は融資時に決算書を頂いていることからも分かります。利益を出せて、それが企業にきちんと積み上がっているかどうかは、決算書を見れば分かります。なので「返済能力=儲かっており、蓄えがある」という構図だけで判断しようとするならば、主に決算書を見ていれば良いということになります。実際、「債務者格付け」の考え方は、このスタンスに基づいているものと言えそうです。


今後も、返済できそうか

「債務者格付け」の考え方は、しかし「事業性評価」に取って代わられようとしています。なぜか?原因の一つに、「債務者格付け」は短期的な視点であることが指摘できると思います。決算書は、今時点の企業の現状を示しますが、将来にどうなるかを示してはくれません。

一方で金融機関が知りたいのは、将来に返済してくれるかについてです。「今儲かっている企業は、将来も儲かる可能性が高いのではないか。だから今儲かっている企業に貸し付ければ、返済の可能性が高いのではないか?」そう思われますか?しかし平成10年から「金融検査マニュアル」に則って中小企業向け融資が行われ、一方でこれほど倒産・廃業企業が増えている(企業数が減っている)歴史をみると、そうとも言えないようです。

こういう経緯で、金融機関、いや正確にいうと金融庁かもしれませんが「決算書に加えて、企業の将来を占う方法が欲しい」と考えるようになったのは、当然のことなのかもしれません。それを行う方法一つとして「企業や経営者をもっとよく知る」ことが含められたのです。


将来の成長を仕組み化している

将来の企業像を垣間見たいと思った時に、一番良いのは、将来に向けて何を実現しようとしているのか、そのためにどんな仕組みを作ろうとしているのかを確認することではないかと思います。これを確認するために、金融機関は、時として次のような質問をします。
・ 今期の目標は何ですか?
・ 貴社の経営課題は何だとお考えですか?
・ 今期の重点取り組み事項は何ですか?
・ 中長期で取り組んでいる事項はありますか?

今、好調な企業にこの質問を投げかけて、さっと答えが得られると、金融機関は「この企業の好調は偶然ではないな。しっかりとパフォーマンスが得られるよう、きちんとした仕組みを取り入れているようだ」と思うことでしょう。一方で、現状がパッとしない企業にこの質問を投げかけて、曖昧な答えしか得られなかった場合には、「この企業が苦労しているのも無理はないな。今もそうだけれど、今後も飛躍的に改善されると期待するのは難しいようだ」と感じるかもしれません。


社員と共に繁栄しようとしているか

「でも、計画倒れということもあるぞ。そういうのは、どうやって見極めるのか?」確かに立派な計画を立てても、それを実現できない企業もいますね。目の前にいる企業が計画を実現できる企業なのか、そうでないのかを見極めるポイントの一つに、従業員が協力する態勢になっているかどうかがあります。金融機関が以下のような質問をした時には、従業員と一体となって計画を遂行し、共に繁栄できる態勢にあることを確認したいと思ったのかもしれません。
・ 御社の強み・弱みは何ですか?
・ 社員の確保に苦労していませんか?
・ 人事で気を付けていることは何ですか?
・ どんな社員になってもらいたいと期待していますか?
・ どのような社員教育をされていますか?

「御社の強み・弱みは何ですか?」という質問は、人材面に限った質問ではないので、製造や販売などビジネスに直結した側面から返答することが多いと思います。一方で、ビジネスは人により成り立っています。「高い品質が自慢です」とか「一度関係ができたお客様が離れることはありません」という答えは、そのようなパフォーマンスを生み出せる人材が存在していることを示しています。

そのような話を聞いた後に社員確保の問題や人事上の工夫、社員への期待、教育内容などを聞くことで、会社を支えてくれる人材が勤続して勤てくれる態勢にあるのか、それが成長していっているのかどうかを伺うことができるでしょう。


顧客や地域にとって不可欠な企業になろうとしているか

どんな企業にも顧客があります。顧客も、たぶん、複数の企業と付き合っていることでしょう。顧客は、いくつかの選択肢を持ちながら、時と場合に応じて選びながら企業と付き合っているのです。ここで、ある企業が特徴を打ち出して、顧客にとって不可欠な企業になれば、不況などの状況になっても取引を続けてもらえる可能性が高まります。

また中小企業のほとんどは、地場に根付いています。地域が発展すれば企業も発展しますし、その逆もあり得るでしょう。企業は地域から影響を受けること大ですが、企業が地域に影響を与える側面も無視できません。特にBtoC企業の場合、地域に貢献しようとする意識はしっかりと顧客に伝わります。それはまた、その企業が選ばれる理由ができ、強まるということです。

金融機関は、これらの点を確認したいと考えて、以下のような質問をするかもしれません。
・ お客様にとって、貴社はどんな存在ですか?
・ 地域にとって、どんな企業になりたいですか?
・ 貴社の経営理念についてお聞かせ下さい



以上のように、金融機関は、決算書で知ることができる企業の現在像だけでなく、企業の将来像を知りたいと思っています。「そんなこと、分かる筈がないよ」という声が上がりそうですね。しかし実際には、皆さん自身も「相手をよく知る」という方法を活用しておられると思います。金融機関も同じです。

企業は、特に中小企業の場合には、経営者の考え方や日頃の行い・注意点、性格などに色濃く影響を受けます。これらを知ることで、企業の行く末をある程度、見通すことができると考えているのです。「企業のことをよく知って、将来性のある企業を応援したい」と考える金融機関に対してしっかりと対応することにより、事業性評価による融資を受けられる可能性が高まることでしょう。


 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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