「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第88回

景気低迷への備えは万全ですか?

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


 実施まで1ヶ月を切り、消費税率アップ(増税)に関する報道が増えてきました。今回は低減税率が導入されたため、これに関する報道も多く見られますが、景気への影響についてコメントするものも見受けられます。本連載は、消費税率アップによりどれほどの影響があるかを予想することを目的とはしませんが、多少なりとも予想される影響に予め手立てしておくことをお勧めしたいと思います。



消費増税だけではない景気低迷要因

 ついこの間まで「景気循環の上昇場面が戦後最長を更新する」と話題だったのに、今はその影もありません。消費増税だけでなく、さまざまな要因で景気が低迷すると予想されています。その筆頭に挙げられるのは米中経済摩擦でしょう。アメリカが中国製品を買わなくなったことで中国に部材等を供給していた産業が低迷しており、その影響は大企業だけでなく中小企業にも広がっています。また、アメリカに輸出できなくなった中国が日本に販路を求めており、これまで国内業者が提供していた商品が中国の安価な商品に置き換わるという現象も起きているようです。


 これによる影響は短期的なものでは終わらず、長期的に、日本の産業構造変化を促す可能性があります。最近の調査結果では、機械設備投資が低迷しています。景気が低迷すると、もちろん増産のための機械設備は必要としませんが、これまで使ってきた機械設備を更新するには良いタイミングです。企業が使っている機械設備の年齢(ビンテージ)が上昇している中、それでも更新しないとは、「今後は当該機械設備を使った生産は先細っていく」との読みなのかもしれません。現在、事業承継の困難さも話題になっていますから、世代を超えた事業継続そのものに先行きが見えていないのかもしれません。


 また日韓関係の悪化が観光客の減少に繋がっていると報道されています。特に韓国と船で簡単に行き来ができる九州地方では、大きな影響をうけている店舗などもあるようです。また、韓国の中小企業とタイアップして事業を進めている日本の中小企業にも影響が出る可能性があります。


 このように現在、大企業から中小企業まであらゆる形で景気低迷の影が忍び寄っています。注意深く用心し、考えられる用意をしておくようお勧めします。



売上減少によるインパクト

 ここで、売上減少が企業にとって、どのようなインパクトを持つのか検討してみましょう。「売上が減っても、その分の仕入れが減るのだから、あまり問題はないのではないか」という話を聞くことがあります。実際、会計ルールによる損益計算上は売り上げた商品の分だけ原価計上されるので、利益にあまり影響は出ない形で表現されため、錯覚に陥るのでしょう。金庫番を奥様や担当者に任せて自分は営業に専念する社長に、その錯覚に陥る方が多いように感じられます。


 しかし実際のビジネスでは売上の前に仕入れがあり、キャッシュが流れていきます。仕入れた商品が売れないと棚卸在庫として積み上がってしまい、いつまでたっても現金に切り替わりません。


 簡単なケースで考えてみましょう。昨年、100の売上があり、そのために80の仕入れをしたとします。粗利は20です(ここでは経費を省略して考えています)。期初と期末の在庫はそれぞれ20で変化なく、現預金もそれぞれ30で変化がなかったとします。


 今年は売上が90に減少したとしましょう。業務上は昨年同様の売上を期待して80の仕入れをしていましたが、実際に売れた商品に係るのは72なので、損益計算上の原価は72が計上されます。粗利は18、流入するキャッシュは昨年より2だけ減ると感じられます。現預金は28(30マイナス2)だと感じられるのです。


 しかしこれは錯覚です。実際に仕入れたが売れなかった商品の8(実際の仕入れ:80マイナス損益計算上の仕入れ:72)は在庫に積み増され、28(20プラス8)となります。これはキャッシュを引き下げ、現預金の減少は10(粗利減少分:2プラス在庫積み増し分:8)となり、現預金は20に減少します。これでは給料や家賃などの経費支払いに支障をきたすかもしれません。



経営上の備え・資金調達上の備え

 以上から、何が分かるでしょうか?景気低迷が予想される時には、これまで以上の備えが必要になることです。先の例で言えば、売上減少を敏感に感じ取り、仕入れを抑えなければなりません。例えば仕入れを80から76に抑えられると、現預金の減少は10ではなく6に止まります。一方で、早めの資金調達も大切です。借入は、金融機関に申し込んでもすぐにはお金が振り込まれませんから、早めに申し込むのです。実際に売上が減少しなくても、景気後退が明らかになった時点で、手元資金を確保すべく借入することで、万が一にも経費支払いが滞ることがないよう手立てができます。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は写真ACからhimawariinさんご提供によるものです。himawariinさん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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