第298回
トランプ関税激震に備える3段対策
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

新年度はアメリカ・トランプ大統領の関税政策動向で世界中が翻弄されている感があります。日本は最も早く4月17日に第1回目協議に臨み、トランプ大統領自身が出席して話題となりました。
アメリカが自国産業の再勃興を目指して(それが的を射ているかどうかは別にして)関税策を打ち出している以上、世界に影響がない、最小限で済むと考えるのは楽観過ぎるかもしれません。今回も、この激震にどのように対応できるかを考えていきます。
激震に耐えられるよう資金調達を考える
もしアメリカを軸とした交易が制限されると、世界は今まで見たことのない打撃を受けると考えられます。過去に日本は繊維や自動車などの輸出を制限されましたが、今回はもっと広範囲な製・商品の取引が制限されます。また日本だけでなく世界中の国が多かれ少なかれ制約を受けるので、相乗的に影響が発生する可能性があります。
「アメリカ向けの製・商品が売れなくなるので、それが安く日本に輸入されるようになるのではないか?」そのようなポジティブ効果が発生する可能性はあるでしょう。しかしアメリカとの交易が縮小したことで日本の購買力が弱る効果・波及効果と比べると小さいと考えられます。プラスマイナスすると負の影響の方が大きいと予想され、それゆえ準備しておくことが勧められるのです。
前回は資金調達をお勧めしました。これがコロナ禍前なら、筆者も影響が出始めた時に借り入れるようお勧めしたと思います。しかしコロナ禍により大きな痛手を受け、それをゼロゼロ融資などの手厚い支援策で乗り切ったものの、財務状況にその爪痕が刻み込まれている企業であれば、早めに動くのが賢明と考えられます。
このような企業は、トランプ関税による影響が顕在化し始めたタイミングで資金調達を模索すると「改善の見込みが見えていないタイミングでは、前向きになるのは難しい」との展開になる可能性が高いのです。今から資金調達を相談しておくと共に経営改善努力にまい進、短期間ながらも成果を出しておくことで前向きな姿勢を引き出せるようにしておくのです。
改善取組みを2段構えで進める
今お話ししたことから、激震に備えるポイントが見えてきます。資金調達に向けて相談に出向くだけでなく、事業改善の取組みも並行して進める必要があるのです。
特にコロナ禍で借入をし、その返済に苦労している企業には必須で、こちらの取組みにどれほど本腰を入れているかが、資金調達できるか否かのカギを握ります。
「理屈は逆だ。貸してくれたら立ち直る可能性がある。貸してくれなければ立ち直れない」との意見があるかもしれません。
例で考えてみましょう。貸付金とは高価な薬です。1,000万円を借りるとは1,000万円の薬を受け取り代金は数年かけて返済する意味合いです。処方する方にもリスクがある中で「普段の生活で大丈夫なはずだ」という患者と「日々の生活改善から運動などを頑張って早く元気になる。その取組をもう始めている」という患者がいれば、どちらに処方したくなるでしょうか?
このため事業改善の取組みを直ぐに始めるようお勧めします。自社が元気になり、資金調達の可能性が高まる一石二鳥の策です。波状的な取り組みをお勧めしています。
第1波はすぐに行える取組み、第2波は計画を立てて行う取組みです。
例えばある会社は総務担当の社員を営業にシフトさせました。「今すぐキャッシュを増やす」策を見える形で実行したのです。シフトに応じてもらうのは簡単ではありませんでしたが、それを行うことで改善への強い意志を全社に示すことができました。
加えて赤字部門効率化の計画にも乗り出しました。直販部門は人件費など固定費がかさみ損益分岐点が高くなりますが、顧客に直に接する事業の要なので安易に廃止する訳にはいきません。通販部門の利用を促して固定費を抑えつつ顧客との関係性は維持する、いや今まで以上に密にして売上拡大する策を計画に盛り込みました。
速効策と計画的に取り組む策の2段構えにより当社は、金融機関から前向きな姿勢を引き出しました。門前払いを危惧していましたが、取組を始めて成果が出るまでを観察してもらい、融資可能と判断されたのです。
「急がば回れ」を実践できるよう早めに対策を考えることが、起きうる可能性が高い衝撃への備えとして有効です。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
【筆者へのご相談等はこちらから】
https://stratecutions.jp/index.php/contacts/
なお、冒頭の写真はCopilot デザイナーにより作成したものです。
今回Copilotさんは「急がば回れ」という言葉をどうしても理解してくれず(解説を加えても)、「曲がりくねった道を歩む」と記載してやっと文意に沿う絵を描いてもらった次第です。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions