「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第216回

なぜ上手くいかないのか(自分事にしない)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



以前に、事業改善に取り組むにあたり成功に繋がる2つのメンタリティをご紹介しました。「自分事にしつつ、みんな事にする」ことと、「実現に漕ぎ着ける道筋を合理的に描く」ことです。


こう申すと「実現に漕ぎ着ける道筋を描くことが必要なのは当たり前な一方、自分事にするとかみんな事にするとか、小学校の道徳のようなことを言うな。あまり信じられない」と言われる方もいるかもしれません。しかし、倒産企業案件を1万8,000以上審査した金融マン、そして今は企業の伴走支援を行うコンサルタントからすると、この2つはとても重要です。まず今回は「自分事にする」メンタリティについて、これがないとどんな問題が生じるか、考えてみましょう。



「自分事」にしないと首尾一貫しない

会社の立て直しを自分事にしない姿は、今の時代、さまざまに窺うことができます。ある社長は「コロナ禍が2年以上も引き続いたため当社は連続して赤字を出し、債務超過になってしまった。コロナさえなければ優良企業だったのに」と言います。「しかし、その中でも売上・利益をキープしている企業もありますよ」というと、「当社の従業員は、それほど優秀ではないから」と答えます。少なくとも冗費は節減しようという時にも、社員から苦情が出た場合に「私も経費をケチケチしたくないが、税理士(コンサルタント)がうるさいので」と言い訳したりしています。このような状況だと、経営者が会社の立て直しを自分事にしていないと言わざるを得ません。


連続赤字になり債務超過になってしまったとは、資金流失して危険的レベルに達したことを意味します。人間でいえば血液が失われて命を失う一歩手前です。すぐに会社の立て直しに本腰を入れなければなりません。なぜなら、会社の立て直しは効果が現れるには一定の期間がかかるからです(新規顧客開拓なら、ターゲットを絞り、訪問を重ね、PDCAサイクルで効果的なアプローチを探り、成約し、納品し、対価が振り込まれるまで)。先延ばしして「そろそろ資金繰りが危なくなる」と思った時に始めたのでは手遅れなことが少なくありません。


このような状況にあっても少なからぬ経営者が「会社の立て直し」を自分事にしていません。すると、どうなるか?例えば「首尾一貫しない」という現象が生じます。経営者本人に「資金を無駄に流出させてはならない」という気持ちがないので、ある時には冗費節減に向けて厳しい姿勢を示しても、ある時には姿勢が甘くなる、時には自分自身が不急不要な費用を支出してしまうのです。



経営者が「自分事」にしなければ社員もしない

経営者が首尾一貫しないことが、なぜそんなに重要なことなのでしょうか?「たまにでも冗費節減に向けて強い姿勢を示していれば、全く示さないより効果があるだろう。」それは金銭面に注目した考え方です。


人の心理を考えると、それは最悪な対応と言わざるを得ません。社員から「冗費節減する」意識が消え去り、「社長に叱られなくすれば良い」という気持ちを植え付けるからです。


なぜそうなるか?冗費削減の厳しいお達しがあった時にたまたま油断して必要だが緊急ではない品を買って叱責された社員は、今後は冗費を使わないよう注意するでしょうか?一方で、社長の気持ちが緩んでいる時には全くお咎めがないとしたら。彼の注意は「冗費を使わないこと」ではなく、「社長の気持ちが緩んでいる時を見極めること」に集中することでしょう。社員は社長の気持ちが緩む時が来ることを知っており、それをじっと待っています。結果として冗費は節減されるどころか、以前より支出されるようになるかもしれません。


ではどうしたら良いか?経営者の言動に首尾一貫性が必要です。「なかなか難しいな。」そう思ってしまうのは、経営者が自分事にしていないからです。だから思わぬ時に油断してしまうのです。


一方で、経営者が会社の立て直しを自分事にしていれば、そのためには冗費節減が鍵だと思っていれば、首尾一貫性が生まれます。社長の言動にブレがないと分かると、やっと、従業員は冗費節減が本当に会社の方針であることを知るのです。小さな舵により船舶の航路が変わるように、経営者の姿勢が会社全体の姿勢を決めることになるのです。


経営者から「従業員は会社の方針を自分事にしない。会社を盛り立てようとしない」との不満を耳にすることがあります。しかしよく話を聞いてみると、経営者自身が会社の立て直しを自分事にしていない場合が少なくありません。「私の姿勢など、従業員に感じ取られることはないよ。」いえ、従業員は敏感に感じ取ります。リーダーの言葉より、姿勢の方が確実に伝わっていきます。会社の立て直しを是非、自分事にしてください。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は 写真AC から acworks さんご提供によるものです。acworks さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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