「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第232回

5方よしの発想を取り入れる

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




コロナ禍が2年以上も続いたことにより売上・利益が減少、財務体質が弱ってしまった企業は事業計画を策定して立て直しに努力することが必要です。「以前に計画を策定したことはあるが、効果がなかった。」このように言われる計画書を拝見したところ、業績を伸ばす原動力が計画に込められていないことが多いのです。計画書に数値目標が記され、必要と思われるアクションプランも記されていたとしても、売上や利益を増やす原理が会社になく、それを育む方策も計画書に盛り込んでなければ、売上・利益の向上は見込めません。これまで「方向合わせ」、「投入資源の総和を超える成果が出せる協力体制」そして「創発」について考えてきました。今回は「5方よし」の発想について考えます。



取引先よしとは

事業活動について自社の利害にこだわる(自分良し)だけではなく、顧客も満足できる(相手良し)や、社会にも貢献する(世間良し)という「三方良し」を目指すのが望ましいとは、江戸時代中期、全国的規模でビジネス活動を行い、時には海外へも進出していた近江商人の経営哲学です。現代では取引先や競争相手まで含めた「5方よし」を目指すことが勧められます。


「事業をするにあたって自社の利害だけでなく他にも思いを寄せる方が良いとは分かっている。しかしそれは余裕がある時なら良いが、会社を立て直そうという時に目指すものではない。ましてや、これが会社立て直しの原動力になるとは到底思えない。最後に付け加えた取引先や競争相手への良しは、百害あって一利なしだ」という声が聞こえてきそうです。しかし、そうでしょうか?


取引先とはサプライチェーンの上流あるいは下流にある企業のことです。自社だけで製品を企画開発・製造・販売・輸送できない企業は、自社が得意とする部分に特化し、他を担当する企業に対価を払ってアイデアや部資材の提供を受ける、製品を卸売して販売を任せる、あるいは手数料を払って輸送等を任せる等しなければなりません。できるだけ入手価格を抑えたい顧客から受け取ったお金をこれら関係者が分け合うという構図だと考えると、これは「お金の争奪戦」であり「敵対関係」と感じる企業があったとしても不思議ではありません。


では、顧客が払ってくれるお金はできるだけ自分が取り、他に渡すお金を最小限に抑えれば良いのか?それが必ずしも得策ではないことが、コロナ禍にあって明らかになってきました。現在、不景気で売上が低迷している中、部資材やガソリン料金等が高騰し、国内のサプライチェーン企業が受け取る「分け前」が縮小しています。自社の利益を確保するために取引先に回す金額を抑えたくなるところですが、それで取引先が倒産等してしまえば、とばっちりを受けるのは自社です。最悪、自社の事業そのものが立ち行かなくなるかもしれません。実際、長い業歴を誇る企業は「少なくなってしまった利益を分け合う」行動原理を身につけており、今回もそれを発揮して苦難を乗り越える姿を目にすることができます。



競争相手よしとは

今度は「競争相手良し」を考えてみましょう。コロナ禍などで人々が外出しなくなったことにより顧客が減少した飲食店などは「競争相手良しなんてとんでもない。競争相手の顧客も全部取り込みたいくらいだ」とお考えかもしれません。しかし考えてみてください。しばらく外出・外食しなかった顧客がウイズコロナになって満を辞して外食先を探そうとする時に、候補に挙げるのは「ぽつんと立つ料理店」でしょうか?それとも「複数がしのぎを削る飲食店街」でしょうか?後者だと思います。


だんだんと寂れていく商店街などを見ても同様に思います。そこに立地する商店は「この商品を売る店は少ない方が良い。我が店だけというのが理想だ」と考えるかもしれませんが、競合する店舗が減ると商店街の活気は目に見えて失われ、1店舗だけという状況になると消失は間近いと言って良いほどです。逆に今では同業者が集まる「ラーメン博物館」や「お好み村」が人気を博していることを見ると、競合良しの競争的共栄メカニズムが働いていると理解できるでしょう。


「3方良しから視野を広げて5方良しまで目指すことで自社の持続化を図り、ウイズコロナ時代に発展できる可能性が生まれることは理解できた。しかし、その構図を描き築くのは一人では難しい。誰かと相談したい」と思われるなら、地域の「よろず支援拠点」あるいは取引金融機関などにご相談ください。中小企業への伴走支援を得意とするStrateCutionsでも、ご相談に乗っています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から 78design さんご提供によるものです。78designさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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