「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第65回

いつものことを、同じでなくする

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
金融機関職員として借入(当時は信用保証の局面でしたが)申請を審査している時や、現在にコンサルタントとしてご支援をする時、中小企業の皆さんと金融機関の意識が大きく異なる場合があると感じます。その一つに「季節資金」が挙げられます。中小企業の皆さんは「いつもの季節資金なので、いつものように融資してくれるだろう」という意識でおられるようですが、金融機関は、そうは考えていません。このギャップが、時には季節資金の調達を難しくしている場合があると感じられます。


「いつものこと」の認識

例えば、毎年夏と年末に資金繰り資金を調達している企業を考えましょう。中小企業の皆さんは「また夏になった。今年は暑くて我が社の売上も好調になると考えられるので、資金繰りで必要になる資金に加えて、仕入れ資金も多めに借りておこう。昨年払えなかったボーナスも、今年は払いたい」という軽い気持ちで、申し込みされるかもしれません。金融機関の担当者に昨年より多めの金額を伝えると、多くの担当者は「ハイわかりました」と答えます(そこで「いつもより借入額が多いですね。何か理由があるのですか?」と質問してくれると良いのですが、多くの場合、質問はありません。忙しくて気が付かないのです)。


金融機関の認識

そのような申し込みのあった場合、金融機関が「毎年2回の、いつもの申し込みだ。前例踏襲でお気軽に審査しておけば良い」と考えるかというと、それはありません。金融機関は(同時に2件の申込みがあった場合等の一部の例外を除いて)毎回毎申込みごとに、決められた手順にしっかりと基づいて審査します。その審査は、企業の現状や申込み内容(特に金額や資金使途)はもちろんのこと、今回申込みにより融資を実行した場合の残高等にまで及びます。もし、今回で残高がこれまでのピークを更新することになれば審査は慎重になりますし、それが金融機関が定める基準を超える場合には、決裁権者が支店長から本店に移行するなどの措置がとられます。

そうやって(いつものように全力投球で審査している時に)貸出残高が既存ピークを超えていることに気が付くと、まず「どうして今回はいつも以上に借入金額が多いのだろう?」が疑問になります。「前期決算では利益が出ており、それに見合って今までは借入残高が減少してきた。にも関わらず今回は借入金額を増やしているのは、最近は業況が思わしくなく、資金がショートしているのだろうか?」と考えても不思議ではありません。

以前にもご説明したように、金融機関には「貸出しやすい状況」というものがあります。例えば過去に貸出実績があって年月の経過と共に返済が進み、残高が当初金額の半額を割り込むようになると、当初残高に戻すような借入の申込みは受け入れやすいと感じます。そこで多少の借入金額の上積みがあったとしても、必要な理由を予め伝えられていれば、特段に問題視しないかもしれません。

しかし、例えば半年前にも貸出をしたので残高があまり減っていない状況で、既往残高をオーバーしてしまうような額の申込みが、特段に説明もなく提出されると、身構えてしまいます。この場合、金融機関と中小企業のコミュニケーションが普段から円滑な場合には「どうして今回の申込みでは、借入金額が増えているのですか」と質問してくれる可能性がありますが、もし普段のコミュニケーションが密でなければ「単刀直入に質問しても、きちんとした返事がもらえないかもしれない。ここは慎重な審査をするに越したことはない」と判断するかもしれません。つまり「今回の申込みについては、お断りするしかない」と判断する可能性があるということです。


毎回、しっかりと説明する

このような状況にならないために、何ができるでしょうか?先にもご説明したように、金融機関は、毎年恒例の夏期と年末に寄せられる季節資金の申込みだからといって「形だけの審査で終わらそう」とは考えません。決められた手順に従って手を抜かず、決算書をもらい、時には試算表まで手に入れて企業の現状をチェックしています。また「資金使途も特段気にしない。どうせ毎年夏(もしくは冬)の資金繰り資金なのだから」とも考えません。申込み内容をきちんと審査しています。

このため、企業の側でも、「昨年も同時期に調達した資金と同様なので、特段の説明をしなくても良いだろう」とは考えずに、しっかりと説明することが大切です。前期決算書の特徴や、事業の現況、資金使途などを、金融機関担当者にしっかりと、できるだけ資料も提出しながら説明しましょう(季節資金の場合には、冒頭にもあったように「いつもの夏の資金、今年は1,500万円でお願いね」という声掛けで依頼する場合も多いようですから、特にそうです)。

例えばこの時に「昨年は1,000万円の調達だったが、今年は500万円増やして1,500万円でお願いしたいと思っている。決算書を見てもらえば分かるが、現在、売行きが好調で、この夏も暑いので需要が堅調と見込んで仕入れ資金を300万円プラスしたい。それに加えて、昨年は払えなかった夏のボーナスを払っておくことで、社員のモチベーション向上や退職の防止に努めたい。検討してもらえないだろうか」と話すのです。


「いつものこと」を、いつもと同じではなくす

企業経営者と金融機関の感覚が違うこと、お分かりかと思いますが「毎年の季節資金調達」については、盲点になっていることが多いように感じられます。中小企業の皆さんにとっては「いつものこと」でも、金融機関は(ある意味)「一期一会」のような感覚で、しっかりと取り組んでいるのです。こういう金融機関の取組み姿勢を踏まえて、しっかりと説明して下さい。そうすることでお互いの意思疎通が密になり、「今回はご支援を見合わせとさせて頂きたい」という不本意な発言を、防止することができるかもしれません。





<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙1枚のボリュームなのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達できる企業になるための方法をしっかりと学んでみてください。


 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。