「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第140回

「雨の日に取り上げる」教訓を今に活かす

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


11月も下旬になり、コロナ禍に振り回された今年も師走が近付いてきました。ここまで頑張って来られた企業、経営者の皆さんには是非、今年を乗り越えて、ワクチンや特効薬が開発されて光明見えてくる来年を駆け抜けて頂きたいと考えています。


それを実現するためには今まで以上に、企業のエネルギー源となる資金調達が重要です。今回のコロナ禍では、今までの景気後退期とは打って変わって、中小企業にも厚い金融支援がなされました。一方で、コロナ禍が長引いて追加の資金調達が必要となった企業は、春夏とは違う局面だと感じておられるようです。今日は、その点について考えてみましょう。


雨の日に傘を貸した金融機関

コロナ禍による自粛やインバウンドの停止、テレワーク化など、実にさまざまな要因が絡み合って、2020年の前半は戦後最大の景気後退に見舞われました。人々の動きが封じられるという前代未聞の現象による影響がこれほど甚大なものなのかと、痛感させられました。そして問題は、この時期に及んでコロナの影響は収束する気配を全く見せていないことです。この状況を、企業は、大企業も中小企業も、耐えていかなければなりません。


その中で今回、特筆されるのは、資金供給が全体として非常に円滑に行われたことです。先日、中小企業の資金調達について現状と今後の展望をお話しさせて頂く機会を頂いた中、統計をご紹介しました。コロナ禍により「中小企業の資金繰り」は大幅に悪化したが、「借りやすさ」は普段でも稀な「借りやすい」状況となっている、「中小企業への貸出残高」も増加しているのです。まさに「雨の日に傘を貸してもらえた」状況です。



「雨の日に傘を回収する」本性が出たか!?

しかし、ここにきて「借りにくくなってきた」との声が聞こえています。確かに、意見交換する金融機関関係者の方々も「春夏のように、申込みに応じるのは難しい」と言っていました。「雨の日に傘を回収する」という金融機関の本性が現れてきたのでしょうか?


「金融機関が、審査のハードルを高めたに違いない」との声を聞くこともありますが、筆者としては「時間の経過により、春夏に資金調達した企業の貸借対照表が悪化してしまった」ことが原因ではないかと考えています。売上が減少してキャッシュが流出してしまい、企業を守るためにコロナ特別貸付・保証で資金調達したものの、その後も思ったほど回復しないのでキャッシュ流出が止まらない、という企業が少なくありません。これは、企業の貸借対照表が毀損している、債務超過に陥っている可能性があることを意味しています。このような企業に、金融機関は、以前のように融資できません。


これが、中小企業が「金融機関が、雨の日に傘を取り上げる本性を現した」と感じる原因なのだと思われます。では、どうすれば良いか?金融機関の特性を踏まえて、雨の日に傘を取り上げられない工夫について、ご説明した回がありますから、是非ご覧ください。

https://www.innovations-i.com/column/sme_fs/51.html



「傘を回収したくない」金融機関の気持ちに応える

一方で今回は、今までとは状況が違うことも、踏まえたいところです。低金利政策などの影響で金融機関が低収益にあえいでいることを、お聞きになったことがあると思います。業績を改善させなければ存続も危うい金融機関も少なくありません。現在は、信用保証を利用した貸付で利息収入は増えていますが、貸付先の業績悪化による貸倒引当金などで与信費用が増加、収益を悪化させています。企業倒産が増加すると収支は更に悪化します。このため「リスクの高い企業に貸した傘は回収したい」との気持ちもありますが、実は「貸した傘は回収したくない。このまま借り続けてもらって、利息収入をもたらしてもらいたい」という気持ちも強く持っています。


中小企業金融の世界に約30年在籍し、今は企業と金融機関を繋いで事業性評価融資の支援する筆者は、「今ほど、金融機関が顧客企業、地域の企業に『元気になってくれ、倒産しないでくれ』と願っている時はない」と感じています。「会社を生き残らせ、立て直したい。赤字から脱し、儲かるようになりたい」という中小企業の願いと、金融機関の願いとの軸が一致しているのです。


金融機関は今、企業に「コロナ禍が続く中、会社を生き残らせ立て直すため、これだけの経営改善努力をしている。この姿を見てくれ!」との声を上げて欲しいと願っています。熱望していると言っても、過言ではありません。「雨の日に借りられた」のに「やっぱり取り上げられた」とならないポイントはまさにここにあります。事業を立て直すため、そして次なる資金調達を成功させるため、ぜひ、事業改善に力強く取組んでください!




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACから acworks さんご提供によるものです。acworks さん、どうもありがとうございました。




 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。