「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第171回

「確実に成果が出る計画」にするには

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



起死回生のため戦略計画を立てたのに、それを「生きた計画」にしなかったので成果が得られず最悪の結果に陥ってしまった企業は少なくありません。先週は、生きた計画にする方法として「実行確実性」を考えました。今回は「確実に成果が出る」側面を考えてみます。



成果を正しく定義する

成果として「新製品を開発する」や「新事業に乗り出す」等を示す経営戦略に出会す場合があります。売上・利益等の数値計画は必須なので、それなりのものは掲載されていますが、新製品や新事業の実現と売上・利益等の関連性が明確に示されていない計画です。経営者は「新製品あるいは新事業が実現できれば我が社は窮地から抜け出せる」と考えたのかもしれませんが、それだけでは、窮地から抜け出せる可能性は極めて少ないのです。逆に、それが更なる窮地に追い込む場合さえあります。

ある、自社製品開発を目指していた製造業経営者の相談に乗っていた時のお話しです。自社の高い技術力を生かせる新製品を開発するため、類似製品を生産していた企業の製造責任者だった人物を顧問に迎えたそうです。そして既存製品にはない高スペックを実現する試作機が完成しました。その報告を受けて筆者は「もうすぐ製品化ですね」と喜びを分け合いましたが、1年経っても製品化の発表がありません。理由を聞くと「顧問がゴーサインを出してくれないから」だそうです。結局、製品化はそれから約半年後でした。1年半の遅れが当社の業績回復に暗い影を落としたのは、言うまでもありません。


せっかくの新製品開発がなぜ「起死回生」に繋がらなかったのか?戦略計画の成果を「新製品の実現」と定義したからだと考えられます。計画は、PDCAサイクルを回しながらゴール実現を目指すツールです。「新製品による業績の回復」と定義していたら、予定時期に業績が回復できないことに「なぜだ?」と問題意識を持ち、対応したでしょう。しかしその会社は「新製品の実現」と定義したので、顧問が「製品化は待ってくれ」と言った時、待つことに疑問を持ちませんでした。筆者が「待っている間に資金は流出、他の受注に集中もできず、会社は傷むばかりだ」と警告しても、なす術はなかったのです。



売れる・利益が出るロジックを示す

確実に効果が出る計画にするもう一つのポイントは、売れる・利益が出るロジックを明確に提示することです。「売上計画や利益計画ではないのか?」いいえ、それらは数値計画で、求められているのは売れる、あるいは利益が出るロジックで、別ものです。例えば利益が出る体質になるため売上を毎年5%増加し、3年後に黒字化する計画を立てたとしましょう。数値計画を立てただけで満足したのでは「死んだ計画」になってしまいます。売れる・利益が出るロジックが示されていないからです。


ある自動車販売店の例で考えてみましょう。当該販売店の隣町は人口が増加傾向にあるベッドタウンでした。郊外で自動車は必須なので社長は当初、「ナンバープレートが遠隔地名(もとの住所)の自家用車所有者は、黙っていても買換え期に自社を使うだろう」とのんびり構えていましたが、数年経っても自社の売上は伸びませんでした。こちらから打って出なければなりません。そのため売上拡大のロジックとして「近隣住宅地でのローラー作戦」を考えました。車を所有する住戸へアンケートを持参して訪問、車検時期の3ヶ月前に来店すれば景品を提供するクーポン券を同封してカタログや提案書を送付して買い替えを促しました。5%売上増とは月に3台、新規顧客から売れること。そのために30人の来客が必要と計算、毎月300軒を訪問することとしたのです。



市場の存在を示す

確実に効果が出る計画とするポイントの3番目は、アプローチできる市場の存在を示すことです。先ほどの自動車販売店の場合は、市場の存在を証明することは簡単でした。隣町の成長は有名で、統計を見れば人口増加を確認できたからです。競合もそう多くはなく、訪問できる住戸が十分に存在することは、容易に納得できました。


一方で、大都市などで同業種が乱立して競合状況にある場合は工夫が必要です。「当店から半径1km以内に3万人が住んでおり、市場としては十分だ」と説明しても、今まで同じ状況で十分な売上が立たなかったのです。人口を伝えても「十分な市場がある」とは認めてもらえないでしょう。この場合「当店が満足な売上をあげるためには1日に30人のお客様が必要、お客様は10日に一度、当店を利用してくれるとして、300人のコア顧客が必要」と置き換えられるかも知れません。「当社アプリを登録しお買い得情報を閲覧してくれる人が1,000人いれば、そのうち300人は利用してくれる」と分かれば、アプリ登録してくれる1,000人の存在でもって市場を示せます。


計画の成果は自然には生まれません。しっかりと仕組むことで実現できます。ぜひ、それを考えてみて下さい。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は写真ACから fujiwara さんご提供によるものです。fujiwara さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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