「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第125回

戦略を考えた次にやること:言語化・数値化

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


前回、コロナ禍で新たなトレンドが生じており対応が求められていることと、それ以前からあったトレンドを掛け合わせると一見、ピンチと思えた企業にもチャンスが巡ってくる可能性があることを考えました(これは、コロナでチャンスを掴んだ企業でも、ぼやぼやしていると落とし穴にはまる可能性があることも意味しています)。

「参考になった。現在は厳しい状況だが、トレンドを押さえることで血路が見出せる可能性がある。自分も考えてみた。」それは素晴らしいことです。それで、どうしましたか?「どうしたかって?考えろと言われたので考え、いろいろと可能性があると感じた。それだけではダメなのか?」ダメとは言いませんが、もったいないです。そこまで考えられたら、是非、次の段階に進んでください。


戦略を言語化する

戦略を考えたら、是非、それを言語化してください。口に出して言う、そして言葉として書き出すのです(手書きでも良いし、パソコンでも構いません)。なぜ言語化するのが良いか?次のようなメリットがあるからです。

第1に、他の人々に的確に伝えられます。伝えるべき相手として「実行してくれる社内担当者・彼らをリードするマネジャー(つまり社員全員)」の他、「戦略実施に共感し協力してくれる関係者」がいます。金融機関も、時には我が社の戦略策定・実行を力強くサポートしてくれます。また時には「共に栄えることを目指したい顧客や取引先など」を見つけることができるかもしれません。

第2に、ブレークダウンが可能になることです。経営者が思いついた戦略は「あの顧客に、この商品をアピールしたい」などのラフスケッチが多く、その実行にはアクションプランが必要になります。アクションプランは経営者だけでは困難で、社員の協力が必要になりますが、言語化されていないと社員を巻き込むことができません。

第3に、ブラッシュアップが可能になることです。今まで多くの企業で戦略策定・実施のお手伝いをしてきましたが、最初に浮かんだアイディアをそのまま実現すればうまくいったという場合は、多くありません。対象市場やターゲット顧客、協力先、実行手順などの側面からブラッシュアップすることが必要でした。それを頭の中で行っても、堂々巡りになることが多いのです。言語化してこそ、うまくブラッシュアップができます。


戦略効果を数値で表現する

戦略を言語化してブラッシュアップし、社員に伝え、彼らを巻き込んでアクションプランを検討できる段階になったら是非考えてもらいたいのが、戦略効果を数値で表現することです。

「そうやって金融機関は『数値計画!数値計画!!』とばかり言う。しかし、そうやってせき立てられて作った数値計画が実現した試しがない。」はい、そのような現状を、筆者もたくさん見てきました。多くの場合、それは「数値計画ありき」で作成されたものが多いと感じています。トレンドを見極め、不利なトレンドには抗うため有利なトレンドを利用する戦略を立て、アクションプランを策定し、社内一丸となって取り組むと心を一つにするというプロセスを経ていない計画です。このような計画は、いくら経営者が実行を促しても「笛吹けども踊らず」という状況になりやすいのです。

一方で、今回の戦略・計画は「こんな状況を打開したい!トレンドを踏まえて練りに練って戦略を立てたので、社内一丸となって実行していく!」というコンセンサスが得られた戦略です。この場合は「笛吹けども踊らず」になる心配はありません。一方で陥りがちなのは、取組みを進めるうちに社員がそれぞれの方向感や成果基準を持つようになって、いつの間にか組織として決めた方向性から外れ、パフォーマンスが落ちてしまうことです。最悪の場合には「会社はお祭り状態なんだけれど、全然儲かっていない」という状況にさえ陥る場合があります。

社員が勝手な方向感や成果基準を抱くのはなぜか?「そうなんだ。社員とは自分勝手な考えに走る場合がある。」というよりも、会社がそれを明確に示していないことが原因になっている、というのが、長年にわたって企業の取組みを支援してきた者としての印象です。何の取組みをいつ迄(数値)に何回(数値)行うか。それにより如何ほどの成果(数値)を出すことを目標にするのかを明確に表現すれば、社員が勝手に方向感を変え成果基準を落としてしまう現象はほとんど無くなります。

言語化して数値化することが、戦略の実現性を高める第一歩です。これはまた、金融機関の納得を引き出し、応援団となってもらう第一歩でもあります。コロナ禍が長期化して厳しい資金繰りが続くとみられる現状では、金融機関に応援団になってもらうことほど心強いことはありません。是非、取り組んでみてください。


<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。



なお、冒頭の写真は写真ACからtom200さんご提供によるものです。tom200さん、どうもありがとうございました。
 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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